弁護士法人金法律事務所

コラム

無効にならない自筆証書遺言の書き方

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相続の際に故人の意思を反映させるには、遺言書の作成が有効です。
遺言書には自筆証書遺言や公正証書遺言などがあり、手軽に作成できるものは自筆証書遺言です。
この記事では、自筆証書遺言の正しい書き方を解説します。

自筆証書遺言

遺言をのこす方が自ら記述したものが自筆証書遺言です。
自宅でお金をかけず手軽に作成できるため、多くの方が利用しています。
しかし形式に厳格な決まりがあり、守られていない場合には無効となるリスクもあります。

相続が発生した際に効力を発動させるには、家庭裁判所による検認手続きが必要です。
検認手続きを受けずに開封してしまうと、5万円以下の過料を科せられる可能性もあるため注意してください。

自筆証書遺言書保管制度

遺言書は自宅で管理する以外に、法務局にて保管することも可能です。
数千円の費用がかかりますが、制度に申し込むことで、紛失や改ざんなどのリスクを減らせます。

さらに申し込み時に対象者を指定しておくと、遺言者が亡くなった際に保管の旨を対象者へ通知できます。
これにより自身の死後、遺言書が発見されないリスクを減らせます。
またこの制度を利用すると、検認手続きを受けずに相続の手続きを進められるメリットもあります。
ただし、申し込み時に遺言書の内容が有効かどうかは確認してもらえません。
自ら責任をもって有効な遺言書を作成してください。

自筆証書遺言の書き方

書き方には決まりがあり、守らなければ場合は無効になります。
有効となる要件は次の通りです。

  • 内容全文、日付、氏名を自筆する
  • 押印する
  • 訂正時は二重線を引いて訂正印を押し、余白に変更した旨と署名を記す

また、法務局にて保管してもらうには、以下の決まりを守らなければいけません。

  • A4サイズの読みやすい色の用紙で作成(罫線入りでも可)
  • 片面のみに記述
  • 上5mm、下10mm、左20mm、右5mmの余白を確保
  • ページ番号を付ける
  • ページをとじ合わせない

遺言者が自筆で作成しなければいけない

自筆証書遺言は、遺言者本人がすべてを自筆で記述しなければならず、パソコンによる記述は認められません。
鉛筆書きでも法的には問題ありませんが、消えてしまうリスクや改ざんされてしまうリスクもあるため、ボールペンなどを使用すると安心です。

日付は、年月日を具体的に記述します。
たとえば「令和〇年〇月吉日」といった記載は具体的な日付がわからないため無効です。
文字や内容を書き間違えてしまった場合は、二重線で訂正し、訂正印を押します。
正しい言葉を記述したあと、余白などに「(項目番号)中、〇字削除、〇字追加」と記述し、署名してください。

ただし、財産目録はパソコンでの作成が認められています。
そのほか、不動産の登記簿謄本や通帳のコピーなどを添付することも可能です。
コピーを添付する際は、内容がはっきりと読み取れるよう、鮮明な画像でなければいけません。
自筆していないページには、全ページに署名と押印が必要です。

表現に注意する

記述する際には、表現に注意が必要です。
誰にどの財産を相続させるのか、人物と財産を特定してわかりやすく記載しなければいけません。
あいまいな表現をしてしまうと特定できなかったり、読んだ人によって解釈が異なったりするリスクがあります。

たとえば不動産は、登記簿謄本通りに記述します。
同一住所に複数の家屋が建っていることもあり、住所だけでは具体的に特定できない可能性があるためです。
また、相続させる意味合いで「家を任せる」などと記述しても、遺言者の意図通りに解釈されない可能性があります。
とくに内容に不満のある相続人がいる場合、そのような文言から「内容が正確に理解できないから無効だ」と主張されることもあります。
明確に記述してください。

保管制度を利用するときの注意点

保管制度にはルールがあり、たとえ遺言書の決まりを守っていても制度のルールを守れていない場合には保管してもらえません。
用紙には上下左右に余白を作らなければいけませんが、その余白に1文字でもはみ出して記載してしまった場合、書き直しが必要になります。
各ページにページ番号を記載する際には、総ページ数もわかるように記載します。
保管している間に文字が消えてしまわないよう、消えるボールペンは使用しないよう注意してください。

また、署名は戸籍通りの文字を用いなければいけません。
申し込み時に本人確認をする都合上、公的資料と署名が一致している必要があるためです。

まとめ

この記事では自筆証書遺言の正しい書き方について解説しました。
有効となるには要件があり、日付を含め全文を自筆で記載し、署名・押印しなければいけません。
財産目録はパソコンでも作成できますが、全ページに署名と押印が必要です。
また保管制度を利用するためには、それに応じた決まりを守る必要があります。
無効にならないよう、作成時には弁護士へご相談ください。

個人再生のメリットとは

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返さなければいけない借金の額が増えていくと、生活を維持することが難しくなります。
生活を立て直すには、一度借金を整理する必要があるかもしれません。
この記事では、個人再生のメリットについて解説します。

債務整理の種類

現在抱えている借金の返済負担を軽くする仕組みが債務整理です。
債務整理には次の3つの種類があります。

  • 任意整理
  • 個人再生
  • 自己破産

任意整理は整理したい借金を選んで手続きできる方法です。
お金を貸してくれた人(債権者)と直接交渉し、将来的に発生する利息を免除してもらえるようお願いします。
交渉に応じてもらえない場合には利用できません。
個人再生と自己破産はともに裁判所の許可のもと、返済すべき借金そのものを減らす手続きです。
個人再生は安定した収入がある場合に利用でき、借金を大幅に減額してもらい、3~5年かけて返済していきます。
自己破産は必要最低限以外の財産を手放し、ほとんどの借金の返済を免除してもらう手続きです。

個人再生の特徴とメリット

個人再生は住宅ローンを除いた借金の総額が5,000万円以下であり、現状では全額返済することが困難な場合に利用できます。
安定した収入があり、減額後に残った借金を返済していけることが条件です。
借金が高額すぎる場合や、減額しても返済しきれない場合は利用できません。
個人再生には次のようなメリットがあります。

  • 借金を大幅に減額できる
  • 自宅などの財産を手放さずに済む
  • 職業の制限がない
  • 浪費やギャンブルによる借金でも利用できる

借金を大幅に減額できる

裁判所へ返済計画案を提出し、それを認めてもらうことで、返済するべき借金の額を減額できます。
返済計画案は収入や所有している財産、負債額などから決定します。
個人再生には最低限返済しなければいけない金額が決まっており、負債額が100万円未満の場合は全額返済しなければいけません。
負債額が500万円を超え1,500万円以下の場合には、負債額の5分の1が返済額です。
1,500万円を超え3,000万円以下の場合は、300万円を返済していきます。

高額な財産を所有している場合には、所有財産を売却した場合に得られる金額に応じて、返済すべき額が決まります。
所有財産には預貯金だけでなく、不動産や家財道具、保険の解約返戻金なども含まれます。
高額な財産を所有している場合や収入が多い場合には、返済すべき額も高額になりますが、それでも返済負担は大きく軽減されることが一般的です。

財産を手放さずに済む

借金そのものを減らす仕組みとして、個人再生のほかに自己破産もあります。
ただし自己破産を行うと、生活に必要な最低限の財産以外はすべて差し押さえられてしまい、手元に残せません。
しかし個人再生は財産を差し押さえられず、手元に残すことが可能です。

とくに自動車やパソコンなどは差し押さえられると生活が不便になり、手続き後の生活に悪影響を与えます。
また20万円以上の払戻金がある保険は財産とみなされ、自己破産時には解約させられる可能性があります。
一方、個人再生は生活を守りながら借金を減らせるため、その後も生活しやすくなることがメリットです。

自宅を残すことも可能

個人再生を利用すると、ローン完済後の自宅だけでなく、ローン返済中の自宅も手元に残せます。
通常、購入した住宅は住宅ローンの担保になっていることが一般的です。
債務整理を行うと、本来であれば住宅ローンの債権者に対しても借金減額の手続きを取ることになり、債権者によって担保となっている住宅を差し押さえられるはずです。
しかし個人再生には住宅ローン特則があり、住宅ローンの返済をこれまで通り続けることでその住宅に住み続けられます。
ただし住宅ローン特則にはさまざまな要件があるため、利用時には確認が必要です。

職業の制限がない

自己破産には手続き中に就けない職業がありますが、個人再生には職業や資格の制限はありません。
自己破産手続き中は弁護士や税理士などの士業のほか、生命保険の募集や警備員などの仕事ができません。
このような方々が債務整理によって大幅に借金を減額したい場合、個人再生を選択する必要があります。

浪費やギャンブルによる借金でも利用できる

自己破産する場合、借金を作ってしまった理由がギャンブルや浪費の場合には、借金返済の免除が認められません。
しかし個人再生を行う場合、借金の理由は問われず、ギャンブルや浪費による借金であっても手続き可能です。
自己破産が認められない状況の方は、個人再生を検討してください。

まとめ

この記事では個人再生を利用するメリットについて解説しました。
債務整理の一種である個人再生は、任意整理よりも大幅に返済を楽にでき、自己破産のように財産を差し押さえられる心配もありません。
とくに住宅を手元に残せるため、これまでの生活を維持しながら借金を減らすことが可能です。
ただし個人再生を利用するには、裁判所に返済計画を認めてもらわなければいけません。
個人再生をお考えの方は、弁護士までご相談ください。

電動キックボードでの事故を未然に防ぐには

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電動キックボードは手軽に利用でき、便利な乗り物です。
しかし公道を走る場合には歩行者や自動車などと事故を起こす可能性もあり、安全には気をつけて乗車しなければいけません。
この記事では、電動キックボード利用時の事故を未然に防ぐために必要なことを解説します。

電動キックボード

道路交通法上、電動キックボードは車両に該当します。
運転する電動キックボードの種類によって原付免許が必要な場合と不要な場合があり、不要な車種は16歳以上であれば誰でも運転可能です。
どちらの場合も、交通ルールを守って運転する必要があります。
原付免許を必要とする車種は車道のみ走行可能ですが、免許不要の車種は自転車道も走行できます。
さらに一定の条件を満たした場合、歩道を走行できる場合もあります。

電動キックボードで起こりやすい事故

電動キックボード利用中は単独事故を起こしたり、歩行者や自動車などと接触事故を起こしたりすることがあります。
電動キックボードはタイヤが小さく、路面の影響を受けやすい構造です。
立ったまま利用するため重心も高くなり、異物や体重移動によって転倒しやすくなります。
歩道走行中にバランスを崩すと、通行人に危害を加えてしまう恐れもあります。
車道走行中には自動車の左折時に巻き込まれたり、ほかの軽車両と接触したりといった事故を起こすこともあります。

電動キックボードでの事故を防ぐために必要なこと

事故を防ぐために一番重要なことは、交通ルールを守ることです。
近年シェアサービスが充実し、免許不要で手軽に利用できるようになった反面、交通ルールを十分に理解しないまま乗車してしまうケースも少なくありません。
まずは交通ルールを正しく把握し、安全に乗車してください。

重要な交通ルール

免許がなくても利用できる電動キックボードですが、交通ルールに違反した場合は罰則を受けます。
たとえば電動キックボードは車両の一種であり、飲酒運転はできません。
お酒を飲んだ時には利用しないでください。
飲酒運転の罰則は厳しく、5年以下の拘禁刑、または100万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

走行できる場所にも決まりがあります。
電動キックボードは原則として道路の一番左側を走行しなければいけません。
そこがたとえ左折レーンであったとしても、そのレーンの左端を走行し、そのまま直進していきます。
一時停止の標識がある場所では停止線の手前で停止し、左右を確認します。
信号や標識などを見落とさないよう注意してください。

また、右折したい場合は二段階右折という方法で右折します。
車道の右折レーンに入って一度に右折するのではなく、交差点を2回に分けて横断し、右折する方法です。
まずは交差点を直進して1回目の横断をします。
その後進路を右に変え、交差点を直進することで2回目の横断をし、右折完了となります。

歩道や横断歩道でのルール

一部の車両では歩道を走行できますが、どのような歩道でも自由に走行できるわけではありません。
走行できるのは、自転車での通行が認められている歩道のみです。
さらに、最高時速が時速6km以下となる機能を利用し、最高速度表示灯を点滅させながら走行しなければいけません。
走行中、標識に従う際には、自転車や軽車両に対する標識を確認します。
歩道を走行する際には歩行者を優先し、通行を妨害するような走行をしてはいけません。

歩道を走行できない車種で歩道や横断歩道を利用したい場合は、キックボードから降り、手で押して歩いてください。
手で押して歩いている間は歩行者扱いになります。

その他のルールや気を付けるべきこと

上記以外にも沢山の交通ルールが存在します。
たとえば電動キックボードの定員は1人であり、2人乗りはできません。
車両を運転する際には安全に配慮する必要があり、危険な行為は禁止です。
スマホを見ながらの運転や、傘を差しながらの運転はいけません。
もっとも、雨天時の利用は法律違反ではありませんが、路面の影響を受けやすいため、事故を防ぐためにも雨天時は運転しない方が安心です。

走行時にイヤホンなどを利用することも危険です。
イヤホンなどで耳をふさぎ外部の音を遮断していると、背後から接近する車に気づけず事故につながる恐れがあります。
都道府県ごとの条例で禁止されていることもあるため、音楽を聴きながらの運転は避けてください。

まとめ

この記事では電動キックボードでの事故を未然に防ぐために必要なことを解説しました。
事故を防ぐには、交通ルールを守ることが大切です。
電動キックボードは自転車などと同じように扱われ、ルールを守らない場合には罰金などを科される可能性もあります。
ただし、どれだけ正しく利用していても、事故のリスクがゼロになるわけではありません。
電動キックボード利用時に事故を起こしてしまった場合には、弁護士までご相談ください。

雇用契約書や労働条件通知書を作成する際の注意点

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雇用契約を結ぶ際、雇用契約書と労働条件通知書は兼用が可能です。
ただし労働条件通知書の作成には法的な決まりがあるため、兼用する場合には適切に要件を満たすよう注意しなければいけません。
この記事では、雇用契約書と労働条件通知書の作成で気を付けるべきことを解説します。

雇用契約

労働者が企業に使用されて労働し、その対価として報酬を得る契約が雇用契約です。
雇用契約を結ぶことで、長時間労働の抑制や社会保険の加入など、労働者として法的に保護を受けられます。
契約を結ぶときには、その内容を明らかにするため契約書を作成することが一般的です。

雇用契約書

雇用主と労働者の間で雇用契約を結んだことを証明する書類が雇用契約書です。
雇用契約は口頭でも結ぶことができ、必ずしも書面にする必要はありません。
しかし口頭だけではトラブルになることもあるため、契約書を作成し、署名押印しておくことが大切です。
同時に雇用主には、労働者に対して労働条件を明示する義務があります。
このとき、雇用契約書に法で定められた通知内容を記載することで、労働条件通知書を兼ねることも可能です。

労働条件通知書

労働条件通知書とは、労働者へ明示しなければならない労働条件などを記載した書類です。
交付が義務付けられており、記載しなければならない内容も法的に決まっています。
書かなければいけない内容は次の通りです。

  • 労働契約期間
  • 就業場所
  • 業務内容
  • 始業・終業の時刻
  • 残業の有無
  • 休憩や休日について
  • 賃金について
  • 退職や解雇について

そのほか、交代制の場合はそのルールや、有期契約の場合には更新などについても記載しなければいけません。
就業場所や業務内容が変更になる可能性がある場合にも、その内容を記載します。
また、パートやアルバイトの方には別途記載しなければいけない内容もあります。
明示義務を果たしていない場合、30万円以下の罰金が科せられる可能性があるため注意が必要です。

作成時の注意点

トラブルを発生させず、また万が一トラブルが発生した際にも速やかに解決させるため、契約書や通知書の作成は重要です。
必要な内容を漏れなく記載し、不備のないように作成しなければいけません。

内容が有効であるよう注意する

たとえば時間外労働に対する割増賃金を支払わないなど、労働基準法に違反した内容を記載してはいけません。
そのような内容を記載した契約書に署名や押印していた場合でも、その契約は無効になります。
また労働条件通知書に記載した内容が実際の条件と異なっている場合には、労働者は即時に契約を解除することが可能です。
経営に大きな影響を与える可能性があるため、注意して作成しなければいけません。

また、就業規則と雇用契約書の内容が異なっていた場合には、就業規則の内容が優先されます。
ただし雇用契約書の内容の方が労働者にとって有利な条件であった場合、雇用契約書の内容が優先されることもあります。
とくに契約更新時などは以前の契約書のまま手続きを進めるのではなく、現在の就業規則や法律に合っているか確認が必要です。

相対的明示事項に注意する

労働条件通知書には必ず書かなければいけない内容のほか、該当する場合のみ明示が義務付けられている内容が存在します。
具体的には次の内容です。

  • 退職手当に関する内容
  • 賞与や手当について
  • 最低賃金額について
  • 食費や作業用品費
  • 安全や衛生について
  • 職業訓練
  • 災害補償、疾病扶助
  • 表彰や制裁
  • 休職について

必要に応じて忘れずに明示するよう注意してください。

テンプレートをそのまま使用しない

インターネット上にはさまざまな雇用契約書や労働条件通知書のテンプレートが存在します。
しかしそれらをそのまま使用すると、企業の実態に合わない内容になってしまう恐れがあり、トラブル発生のリスクが高まります。
テンプレートを使用する際には、実際の契約に合わせて内容を適切に作り変えなければいけません。
とくに正社員や契約社員、パートなど雇用形態が異なる場合には、それぞれ異なる内容について記載義務があるため注意が必要です。

また、テンプレートに記載されていない内容であっても、企業の実情に合わせて記載するべき内容が存在する可能性もあります。
記載漏れを防ぐため、テンプレートを使用する場合であっても、法律の専門家などに相談しながら作成すると安心です。

まとめ

この記事では、雇用契約書や労働条件通知書を作成するうえでの注意点を解説しました。
労働契約を結ぶ際には労働条件の通知が義務付けられており、決められた内容を通知していない場合には違法となる可能性もあります。
また、記載内容が労働基準法に違反している場合や就業規則と異なる場合には、無効となることもあります。
作成時には社内に存在する規則や法的な観点をもとに、適切に作成しなければいけません。
雇用契約書などの作成の際には、弁護士までご相談ください。

離婚時に不動産を財産分与する際の注意点

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離婚する際には、通常、夫婦で協力して築き上げた財産を夫婦間で公平に分配します。
このとき不動産があり、なおかつ住宅ローンが残っている場合には、分配が複雑になります。
この記事では、不動産を財産分与する際の注意点を解説します。

財産分与とは

財産分与とは、夫婦の共有財産を清算することです。
原則として、夫婦間で2分の1ずつ分配します。
たとえ夫婦どちらかの単独名義の財産であったとしても、夫婦の協力のもと築いてきた財産は共有財産です。
婚姻期間中に蓄えた預貯金や購入した不動産も共有財産となります。
現金はそのまま分配できますが、現金以外の財産は評価額などを参考にして分配しなければいけません。
現物をそのまま分けるほか、売却したのち現金を分配する方法もあります。

不動産の財産分与

不動産は夫婦の共有財産のうち、非常に大きな価値を持つものです。
通常、どちらかが住み続けたり、売却して売却益を分配したりする方法をとります。
どちらの場合でも、財産分与の際には、まず不動産の価値を把握しなければいけません。
このとき、住宅ローンの有無も考慮する必要があります。

不動産評価額

不動産の評価は売買時の時価で判断することが一般的です。
不動産業者に依頼し、査定してもらうことで判断できます。
住宅ローンが残っている場合には、評価額からローンを差し引くことで不動産の価値を算出します。
たとえば評価額1,500万円の不動産があり、住宅ローンが1,000万円残っている場合には、財産分与におけるその不動産の価値は500万円となります。

ただし状況によっては、不動産評価額よりも住宅ローンの方が高額になっていることもあります。
評価額1,500万円の不動産の住宅ローン残高が2,000万円だった場合、たとえ住宅を売却しても借金が500万円残ります。
財産分与において、売却後もローンが残ってしまう不動産の価値は0円とみなされることが一般的です。
この場合、価値のない不動産は財産分与の対象として取り扱わず、ローンの名義人がそのまま不動産を所有し、ローンを返済していく方法をとることがあります。

売却して得た金銭を分配する

財産分与の際に不動産を売却する場合には、ローンを完済しているか、ローンよりも評価額が高額であることが前提となります。
不動産には抵当権が設定されており、ローンを完済することが売却の条件になるためです。
ローンを完済している場合は売却して得た金銭をそのまま分配します。
ローンが残っている場合には、売却益でローンを完済したのち、余った売却益を分けます。

ただし、評価額よりもローンの方が高額であっても、どうしても売却したいケースも存在します。
所有している住宅が離婚後の生活に合わない場合には、その不動産を所有し、ローンの返済を続けていくことは大きな負担です。
このようなとき、売却益だけでは返済しきれない分は、自己資金でまかなうことも可能です。
そのほか、任意売却という方法であれば、ローンを完済できない場合でも売却できます。
ただし任意売却後は信用情報に傷がつき、数年間は借り入れが困難になるため注意が必要です。

夫婦のどちらかが所有し住み続ける

夫婦のどちらかが不動産を所有し続ける場合には、家を出ていく側に金銭など同じ価額分の財産を渡すことで公平に分配できます。
ローンを完済している場合、相手に渡す金額が高くなりやすいため注意が必要です。

ローンが残っている場合には、ローンの名義人と住み続ける人が同じかどうかで対応が異なります。
ローンの名義人と暮らす人が同一の場合、そのまま生活を続けることが可能です。
しかしローンの名義人ではない人が住み続けたい場合には、ローンの名義を変更して自身が不動産を取得するか、所有者に対し賃貸契約を結んだり使用許可を得たりする必要があります。
なお、ローンの名義変更は銀行などの許可を得なければならず、安定した収入が必要です。

ペアローンを組んでいた場合

ペアローンとは、ひとつの不動産に対し夫婦がそれぞれ別の住宅ローンを組む方法です。
不動産は共有名義となり、それぞれの出資割合に応じた持ち分を所有します。
離婚後もどちらかが所有し続けたい場合には、ローンを一本化し、単独名義にすることが理想です。

離婚後も共有名義のまま、お互いが自身の持ち分を所有し続けることは可能ですが、売却時には相手の同意を得なければいけないなど、手続きが複雑になります。
後々のトラブルを避けるため、ローンの一本化が難しい場合には売却を検討することもあります。

まとめ

この記事では不動産の財産分与について解説しました。
財産分与の方法としては、売却して得た金銭を公平に分配するか、片方が不動産を取得し、もう片方には金銭などほかの財産で清算する方法があります。
住宅ローンが残っている場合には、評価額とローン残高のどちらが高額かによって対応が変わります。
そのほか、条件により適切な財産分与の方法は異なります。
離婚をお考えの際は、弁護士までご相談ください。

期限のある相続手続きと期限を過ぎてしまった場合のリスク

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身近な方が亡くなると、同時にさまざまな手続きが必要になります。
なかには期限が決められている手続きもあり、期限を過ぎてしまうと不利益を被る可能性もあります。
この記事では、相続の手続きを期限内に行えなかったときのリスクについて解説します。

相続の手続き

身近な方が亡くなると、葬儀や供養と並行して、さまざまな手続きを行わなければいけません。
故人の財産を受け継いだり、解約や需給停止手続きを行ったりと、やるべきことは多岐にわたります。
忙しさのあまり後回しにしていると、そのまま手続きし忘れたり、期限に間に合わなくなったりすることもあるため、注意が必要です。

たとえば遺産の分け方を決める協議や、相続人に該当する人の調査には、期限がありません。
しかしこれらの手続きが終わっていないと、その他の期限付きの手続きを進められません。
相続の手続きは計画的に進めていく必要があります。

期限のある手続き

次の手続きには期限が定められています。

  • 相続放棄の判断
  • 相続税の申告と納税
  • 遺留分侵害額請求
  • 相続登記

相続放棄の判断

遺産は相続しないことも可能です。
その判断は相続開始を知ったとき(通常は故人が亡くなった日)から3か月以内に行わなければいけません。
たとえば故人に多くの借金があった場合、相続放棄や限定承認を選択することで、相続人は借金を背負わずに済みます。

相続放棄は、故人の財産をすべて相続しないという選択です。
限定承認は故人に借金などマイナスの財産がある場合、プラスの財産額を上限としてマイナスの財産も相続するものです。
プラスの財産額を超えた分の借金は相続する必要がなく、大きな負債を抱えずに済みます。
相続放棄や限定承認の申し立てを行わずに3か月が経過すると、自動的にすべての財産を相続することになります。

原則として、あとから相続放棄や限定承認を選択することはできません。
ただし、財産の調査に時間がかかるなど期限内に選択できない場合には、家庭裁判所へ熟慮期間延長の申し立てを行うことも可能です。
また、故人が亡くなったことを知らなかったなど正当な理由がある場合は、故人が亡くなってから3か月以上経過していても、相続放棄などを選択できます。

相続税の申告、納税

相続税の申告と納税は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に行わなければいけません。
期限内に申告しなかった場合、無申告加算税が課せられます。
期限内に納税できなかった場合には延滞税が課せられ、納める税金の総額が多くなります。
納期限の翌日から2か月が経過すると延滞税率はさらに高くなり、負担が重くなるため早めの対応が必要です。

未納のまま長期間経過すると、税務署から滞納処分を受けることがあります。
滞納処分では財産を差し押さえられ、現金に換えられたのち、納税にあてられます。
どうしても納税が難しいときには税務署へ相談し、延納や物納といった方法を検討してください。

遺留分侵害額請求

相続人には相続できる財産の最低限の割合が決まっており、これを遺留分と言います。
遺言書によって特定の相続人に相続が集中している場合など、遺留分を侵害されたときには、その相続人に対して遺留分侵害額請求を行うことが可能です。
これにより、最低限の財産を相続できます。

ただし遺留分侵害額請求を行えるのは、相続の開始と遺留分が侵害されている事実の両方を知ってから1年以内です。
故人が亡くなってから10年が経過した場合にも、この権利は行使できなくなります。

相続登記

相続した不動産は、故人の名義から相続人の名義に変更しなければいけません。
相続によって不動産を取得した日から3年以内に登記を行うことが義務付けられています。
正当な理由がなく登記を行わなかった場合、10万円以下の過料が科せられることもあるため、忘れずに行ってください。

遺産の分割方法でもめているなど、期限内に相続登記を行うことが難しい場合には、相続人申告登記を行うことで相続登記の申請義務を果たすことも可能です。
相続人申告登記を行うと、自分が相続人であることを示すことができ、相続登記に関する過料を科せられる心配がなくなります。
ただし相続人申告登記を行うことで相続登記が完了するわけではありません。
遺産分割協議が終了した際には、あらためて相続登記を行う必要があります。

まとめ

この記事では、相続の手続きを期限内に行わなかった場合のリスクについて解説しました。
相続放棄の判断や遺留分の請求は期限を過ぎると認められなくなり、不利益を被る可能性があります。
また相続税の申告や相続登記などを期限内に行わないと、ペナルティを受けることもあります。
相続の際には複数の手続きが同時に発生しますが、忘れずにすべての手続きを行わなければいけません。
相続の手続きに関するトラブルは、弁護士までご相談ください。

債務整理をしても携帯電話は使用できるのか

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債務整理を行ったとき、携帯電話の利用は続けられるのでしょうか。
それは、どのような債務整理を行うか、利用料金などの未納があるかによって変わります。
この記事では、債務整理を行った際の携帯電話の利用について解説します。

債務整理とは

債務整理とは、支払利息を免除してもらったり、借金自体を減らしてもらったりして、毎月の返済にゆとりを持たせる手続きです。
債務整理には次の3種類があります。

  • 任意整理
  • 個人再生
  • 自己破産

任意整理はお金を貸してくれた方と直接交渉する方法です。
返済を軽くしたい借金を選んで個別に交渉できますが、大幅な減額は見込めません。
個人再生と自己破産は、裁判所に認めてもらうことで借金の額を大幅に減額したり、返済を免除してもらったりする方法です。
すべての借金に対して一律で手続きするため、特定の借金を選んで除外することはできません。

債務整理を行うと信用情報機関に登録される

債務整理を行うと、その情報は信用情報機関に登録されます。
信用情報機関に登録された情報は、新たな借り入れをする際などに、金融機関によって確認されます。
債務整理の情報が登録されていると、基本的に、新たな借り入れはできません。
借り入れだけでなく、クレジットカードの利用やローン契約も不可能です。
そのため、商品を分割払いで購入することが難しくなります。
なお、債務整理の情報が登録されている期間は5年から10年ほどです。

債務整理を行っても携帯電話は利用できるのか

携帯電話使用料の未納や分割払いの残りがない場合、債務整理を行ったあとも継続して携帯電話を利用できます。
しかし未納や分割払いの残りがある状態で債務整理を行うと、携帯電話会社との契約が強制解約となり、利用を継続できません。

未納や分割払いの残りがある場合

利用料金の未納や、分割払いの残りの支払いは、個人再生や自己破産手続きの対象となります。
個人再生や自己破産を行うと、未納分の料金などの支払いが大幅に免除されることになり、携帯電話会社は損をします。
そのため、ほとんどの携帯電話会社は、破産手続き開始の通知が届いた時点で利用停止の措置を取ることが一般的です。
債務整理によって返済の負担は減りますが、その後、携帯電話の継続利用はできません。

一方、任意整理は、債務整理する対象を自ら選べます。
債務整理の対象から携帯電話会社を除外することで、未納分や分割払いの残りの支払いを今後も続けられるため、その後も継続利用が可能です。
ただし任意整理では借金を大きく減らせません。
未納が続くようであれば、結局は強制的に解約されてしまう恐れがあるため、弁護士に相談のうえ、状況にあった債務整理を行ってください。

新規契約や機種変更

債務整理を行っても、原則として新規契約や機種変更は可能です。
ただし自己破産などによって強制解約となった場合、一時的に新規契約が難しくなることもあります。
自己破産手続き中は、債務整理手続きの対象となっている携帯電話会社と新たに契約を結べません。
さらに、料金の不払い情報はほかの携帯電話会社にも共有されるため、ほかの会社で新規契約することも難しくなります。
不払い情報の共有は、自己破産によって支払いの免除が確定するまで続きます。

また債務整理を行うと、新規契約時に預託金の支払いを求められることがあります。
預託金とは保証のために支払う金銭であり、万が一利用料金の支払いが滞った場合には、預託金から滞納分の料金が支払われます。
預託金の額は1回線あたり数万円~10万円程度が一般的です。

分割払いは難しくなる

債務整理を行うと、信用情報機関に債務整理の情報が登録され、分割での支払いが難しくなります。
通常、スマートフォンなどの端末代金は毎月分割して支払います。
しかし債務整理後、信用情報が回復するまでは、端末代金を一括で支払わなければいけません。
近年は高額な機種も多いため、購入できる機種が制限される恐れがあります。

携帯電話は自己破産時の差し押さえの対象になるのか

自己破産すると、必要最低限以外の財産は差し押さえられ、現金に換えられて借金の返済に充てられます。
しかし携帯電話やスマートフォンは生活必需品と認められ、差し押さえの対象にはなりません。
ただし一人で複数台所有している場合や、端末代金が20万円以上の場合には、差し押さえの対象になることもあります。

まとめ

この記事では、債務整理をしたときの携帯電話の利用について解説しました。
利用料金の未納や、分割払いの残りがなければ、債務整理を行っても継続して利用できます。
しかし未払いの代金がある場合、債務整理してしまうと、強制的に解約される恐れがあります。
債務整理後も新規契約や機種変更は可能ですが、場合によっては審査に通らないこともあります。
影響を最小限に抑えるためにも、債務整理を行う際には弁護士までご相談ください。

電動キックボードで交通事故にあってしまったときの対応

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電動キックボードは近年新しく普及してきた乗り物です。
小型で簡単に乗れるため便利な反面、事故が起こった際の対応が難しい面もあります。
この記事では、電動キックボードで交通事故にあった際の対応について解説します。

電動キックボードとは

電動キックボードはモーターの付いたキックボードです。
道路交通法では自転車やバイク、自動車と同じく、車両に該当します。
電動キックボードはその規格に応じて、次の3つに分けられます。

  • 一般原動機付自転車
  • 特定小型原動機付自転車
  • 特例特定小型原動機付自転車

一般原動機付自転車に該当する電動キックボードを運転する際には、原付免許が必要です。
特定小型・特例特定小型に該当する電動キックボードは、16歳以上であれば免許不要で運転できます。
ただし免許が不要であっても、交通ルールは守らなければいけません。

規格ごとの主な交通ルール

電動キックボードは、自賠責保険の加入やナンバープレートの装着が義務付けられています。
そのほか、一般原動機付自転車に該当する電動キックボードは車道のみ走行可能ですが、特定小型原動機付自転車は自転車道の走行も可能です。
さらに特例特定小型原動機付自転車に該当する場合は、一定の条件を満たした場合、一部の歩道も走行できます。
運転する車両の規格を把握し、規格に応じた交通ルールを守ってください。

電動キックボードによる交通事故

電動キックボードは車両の中でもバランスを崩しやすく、転倒しやすい特徴があります。
自損事故だけでなく、被害者にも加害者にもなる可能性があります。
車道走行時には自動車に接触する可能性もあり、大きな事故を起こしかねません。

電動キックボード使用時に交通事故にあった場合も、その他の交通事故と同様の対応が必要です。
まずは警察へ連絡したり、けが人を搬送したりといった基本的な対応をしてください。
保険に加入している場合には保険会社へ連絡し、その後の対応を相談します。
また電動キックボードのレンタルサービスを利用していた場合には、レンタル事業者への連絡も必要です。

自損事故や被害者になった場合

操作を誤って自損事故を起こすことや、交通事故の被害者になることがあります。
事故を起こした時には、たとえ自覚症状がなかったとしても、病院で診察を受けておくことが大切です。
むち打ち症などの場合、あとから痛みが出てくることもあります。

事故の被害者になると、事故の相手に治療費や慰謝料などを請求できます。
自損事故の場合も、加入している保険によっては、治療費などが支払われる可能性があります。
治療費の請求の際には医師の診断書が必要です。

誰かに怪我をさせた・物を壊してしまった場合

誰かにけがを負わせたり、何かを壊したりしてしまった際には、相手の損害に対して自分の過失に応じた分の賠償金を支払わなければいけません。
電動キックボードを利用する際には自賠責保険の加入が義務付けられていますが、自賠責保険で支払われるのは相手の怪我に対する補償のみです。
壊してしまった物の賠償は補償されません。

自賠責保険でまかないきれない賠償金は、任意保険でまかなえます。
任意保険に加入していない場合には自分で賠償金を支払うことになるため、自動車やバイクと同様、任意保険へ加入しておくと安心です。

過失割合でもめる可能性がある

支払う賠償金の額は、過失割合によっても変動します。
過失割合とは、どちらの行動にどれだけ悪い部分があったのかを示す割合です。
一般的な自動車事故では、事故の状況に応じて基本的な過失割合が決まっています。
過去の似たような事故の裁判例と照らし合わせ、道路交通法違反の有無などを考慮しながら、適切な過失割合を導き出します。

しかし電動キックボードによる事故の場合、過去の電動キックボードによる事故の事例が少なく、判断基準が明確ではありません。
電動キックボードは原動機付自転車に該当しますが、一部の車両は免許不要で運転できたり、走行場所が自転車と同様だったりします。
単純にバイク事故の事例を参考にすれば良いというものではなく、慎重に判断しなければいけません。

基本的な過失割合が明確ではないぶん、事故の相手方は自身が有利になるような主張をする可能性が高くなります。
参考にできる裁判例も少ないことから、交渉が難航する可能性も高くなります。
そのため、弁護士に交渉を依頼することが有益です。

まとめ

この記事では電動キックボード利用中に交通事故を起こした際の対応について解説しました。
電動キックボードは原動機付自転車に該当しますが、一定の条件を満たせば、運転免許がなくても運転できます。
交通事故後の対応は一般的な交通事故と変わりません。
しかし過失割合を決める際には、前例が少ないため、交渉が難航する恐れがあります。
電動キックボード利用時に交通事故を起こしてしまった場合には、弁護士へご相談ください。

残業代を請求されたときの対応について

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事業を行っていると、従業員から未払いの残業代を請求されることがあります。
支払わなければいけない残業代を支払っていなかった場合だけでなく、従業員の認識や計算が会社と異なっていた場合にも、このようなことは起こります。
この記事では、従業員に残業代を請求されたときの対応について解説します。

残業代とは

残業代とは、決められた労働時間を超えて行った労働に対する賃金です。
法内残業に対する賃金や、以下の労働に対する割増賃金を合わせて支払います。

  • 時間外労働
  • 休日労働
  • 深夜労働

割増賃金は、それぞれの割増率を用いて計算します。
1か月間に時間外労働を行った総時間数や、労働した時間帯によって割増率は変わるため、正確な残業の記録や正しい計算知識がなければ計算を間違えてしまうこともあります。

残業代の未払いがある場合

支払わなければいけない残業代を未払いにしていた場合、遅延した期間の遅延損害金を上乗せして支払わなければいけません。
さらに、訴訟によって支払いが決定した場合には、未払い額と同額の付加金も合わせて支払わなければいけないことがあります。
従業員から残業代の請求を受けたときには、その請求が正しいかどうかを精査し、誠実に対応しなければいけません。

残業代を請求されたときの対応

従業員から残業代を請求されたとき、それを無視してはいけません。
正しく事務処理を行ったつもりでも、時間外労働の把握や計算に誤りがあり、未払いが発生していることもあります。
また、たとえ従業員の認識が間違っている場合でも、対応せずにいると大きなトラブルへ発展する恐れがあります。

請求内容を精査する

まずは従業員の請求内容を精査し、従業員の請求が正しいか確認する必要があります。
たとえば次のような理由により、従業員の請求に誤りがあることもあります。

  • 残業時間の認識に誤りがある
  • 計算が間違っている
  • 固定残業代を支給している
  • 時効が成立している

残業時間の確認は、タイムカードなどの記録によって行います。
残業に関する報告書などがある場合には、それらをもとに確認してください。
このとき、労働時間の切り捨てや切り上げを間違えていないか注意が必要です。
1か月の時間外労働の合計時間に1時間未満の端数がある場合、30分未満の端数は切り捨て、30分以上の端数は1時間に切り上げることが認められています。
ただしこれは1か月単位の計算でのみ認められるものであり、日単位・週単位では認められません。

営業職や外回りを中心とする従業員は正確な労働時間を把握することが難しく、固定の残業代を支給することもあります。
固定残業代とは、あらかじめ一定時間の残業が行われることを想定し、一定の残業代を支払うものです。
実際の残業時間が決められた残業時間内に収まっていれば、追加で残業代を支払う必要はありません。
ただし、深夜労働や休日労働に対する割増賃金は発生します。
決められた労働時間を超えた分の残業代や、深夜・休日労働に対する割増賃金が未払いになっていないか、注意する必要があります。

また、残業代請求に関する時効が成立している場合も、その分の支払いは必要ありません。
残業代の時効は3年で成立しますが、成立前に残業代の請求や裁判などを行うと、時効完成までの期間が延長されます。

和解もしくは反論する

従業員の請求を精査し、会社側に誤りがあった場合には、和解によって解決を目指します。
未払いの残業代や遅延損害金を支払い、和解についての合意書を作成しておくと、その後のトラブルを防止できます。
従業員の請求を精査した結果、会社側の計算などに誤りがない場合には、従業員の請求に対し反論していくことになります。
労働時間に関する認識の間違いがある場合には、タイムカードなどの客観的な証拠をもとに、会社側の認識が正しいことを証明してください。
残業代の計算は法律の知識がないと間違ってしまうこともあるため、従業員への反論は弁護士に依頼すると安心です。

双方の主張が対立している場合、裁判に発展する恐れもあります。
裁判には時間も労力もかかるため、裁判に発展しないよう交渉した方が良い場合もあります。
裁判の際、労働時間の認識や残業代の計算が正しいか判断するのは裁判所です。
第三者が見ても会社側の主張が正しいと判断できる客観的な証拠を用意してください。

まとめ

この記事では、従業員に残業代を請求されたときの対応について解説しました。
残業時間の認識や計算ルールの認識を間違えていると、残業代を正しく計算できません。
従業員から残業代を請求されたときには、従業員の主張が正しいか、会社側にミスがないか、精査する必要があります。
会社側のミスが発覚した場合には、誠実かつ速やかに対応します。
しかし従業員側の主張を受け入れられないときには、反論していかなければいけません。
労働に関する問題の交渉は、弁護士までご相談ください。

慰謝料的財産分与とは別に、慰謝料を請求できるケースとは?

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離婚する際、婚姻期間中に築き上げた財産を分配する仕組みが、財産分与です。
財産分与に慰謝料的な意味合いを持たせて支払われたとき、それとは別に慰謝料を請求することは可能なのでしょうか。
この記事では、慰謝料的財産分与と慰謝料を両方とも請求できるケースについて解説します。

慰謝料と慰謝料的財産分与

離婚の原因が相手にある場合、離婚によって受けた精神的苦痛に対し、慰謝料を請求できます。
慰謝料や慰謝料的財産分与の額は、当事者同士の話し合いで決められます。
話し合いで慰謝料の必要性や金額などが合意できなかった場合には、裁判により金額などを判断してもらうこともあります。
婚姻期間が長かった場合や、相手の行為が悪質であるなど苦痛が大きいと判断される場合には、慰謝料の額も高額になることが一般的です。

慰謝料

離婚による慰謝料には、離婚すること自体に対する慰謝料と、離婚に至った原因となる行為に対する慰謝料が含まれます。
慰謝料の対象となる行為には、次のようなものがあります。

  • 配偶者以外と肉体関係を持った
  • 暴言や暴力があった
  • 夫婦間で互いに協力し、助け合うことをしなかった
  • 夫婦関係を継続できない重大な原因があった

このような原因に対して慰謝料を請求する際には、とくに裁判などで争う場合、その行為があったことを示す客観的な証拠が必要です。

慰謝料的財産分与

財産分与に慰謝料的な意味合いを持たせたものが、慰謝料的財産分与です。
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が互いの協力のもと築き上げた財産を公平に分配することです。
通常は夫婦で2分の1ずつ分け合います。
たとえ夫婦のどちらかが専業主婦(夫)であっても同様に分配します。
専業主婦は家事に従事することで相手の生活を支え、財産の形成に協力したと言えるためです。

しかし財産分与は、必ずしも2分の1ずつ分けるものではありません。
個々の事情に合わせ、割合を変更することも可能です。
たとえば離婚に至った原因が夫婦の片方にある場合、その事情を考慮したうえで割合を決定してもかまいません。
離婚の原因を作った側の割合を少なくし、相手側が多く受け取ることで、相手の精神的苦痛の補填とします。
これが、慰謝料的財産分与です。

慰謝料と慰謝料的財産分与を両方得られるケース

慰謝料と慰謝料的財産分与は別の仕組みです。
しかし離婚というひとつの苦痛に対し、慰謝料を重ねて受け取ることはできません。
ただし慰謝料的財産分与の額が、本来受け取れるはずの慰謝料額に満たない場合、その不足分を別途請求することが可能です。

慰謝料的財産分与で賠償しきれない場合

たとえば離婚による慰謝料として300万円の請求が適正である場合で考えてみましょう。
本来、財産分与は2分の1ずつ分け合いますが、その金額に300万円を上乗せして支払われた場合、それとは別に慰謝料を請求しても認められません。
しかし上乗せされた金額が100万円であった場合、不足分200万円の請求を認められる可能性があります。

ただし裁判によってこれを認めてもらうには、財産分与に上乗せされた金額だけでは賠償しきれないことを証明しなければいけません。
たとえば離婚に至った原因として、相手の不貞行為や暴力などがあった場合には、それらを示す証拠が必要です。

慰謝料は不倫相手に請求することも可能

配偶者へ別途慰謝料を請求しようとしても、配偶者の経済状況によっては、支払う能力が足りないこともあります。
離婚の原因が相手の不貞行為であり、一定の条件を満たしている場合、不倫相手に慰謝料を請求することも可能です。

ただし不倫相手に慰謝料を請求できるのは、不倫相手が「相手が既婚者であるとわかっていながら肉体関係を持ったとき」のみです。
配偶者が不倫相手に既婚者であることを伝えていた場合や、既婚者であることが明らかな状況で不貞行為に及んだ場合でなければ請求できません。
そのため、配偶者がマッチングアプリなどを利用し、既婚者であることを隠して不貞行為に及んでいた場合には、不倫相手に請求できない可能性があります。

また、不倫相手に請求できる金額は、慰謝料の不足分です。
適正な慰謝料額が300万円であり、配偶者から慰謝料的財産分与として100万円、慰謝料として50万円を受け取る場合、不倫相手に請求できるのは残りの150万円となります。

まとめ

この記事では、慰謝料的財産分与とは別に慰謝料を請求できるケースについて解説しました。
慰謝料と財産分与は本来別の仕組みですが、ふたつを合わせて慰謝料的財産分与とすることも可能です。
ただし、受け取った慰謝料的財産分与の額では精神的苦痛を賠償しきれないと判断されるときには、別途不足分の慰謝料を請求できます。
慰謝料の判断には、離婚に至った原因や財産分与として受け取った金額など、さまざまな要因が関係します。
離婚の際は弁護士までご相談ください。

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