弁護士法人金法律事務所

コラム

相続人調査は自分でできるの?手順と注意点

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相続が発生したときには、相続人の調査が必要です。
たとえ相続人をすべて把握しているつもりでいても、被相続人に生き別れた子どもや養子がいることもあります。
この記事では、相続人の調査を自分で行うときの手順と注意点を解説します。

相続人調査

相続が発生した際には、相続人に該当する人をすべて把握するため、調査を行わなければいけません。
相続税額の計算や、相続財産の分割について協議する際に、すべての法定相続人を把握しておく必要があるためです。

相続人を把握する必要性

相続税には基礎控除があり、その額は法定相続人の数によって変わります。
法定相続人が多いほど控除額は大きくなり、納めるべき相続税額が低くなります。
遺産の分割について相続人同士で協議する際には、法定相続人全員が協議に参加する必要があります。
全員が参加していない協議は無効となり、再度全員で協議を行わなければいけません。
さらに被相続人の所有していた不動産の名義変更を行うときや、預金の払い戻しを受ける際にも、相続人全員の同意を得る必要があります。

存在を知らなかった相続人が発覚することもある

すべての相続人を把握しているつもりでいても、実際に調査を行うと、認識していなかった相続人に気付くことがあります。
たとえば被相続人に離婚歴があり、元配偶者との間に子どもがいた場合、たとえその子どもと連絡を取っていなかったとしても、その子どもは法定相続人になります。
そのほか、認知した子や、養子縁組した子どもも法定相続人です。
相続調査では、こうした相続人を漏れなく把握しなければいけません。

相続人の調査と注意点

相続人の調査は、被相続人が生まれてから亡くなるまでの、戸籍をすべて調べる方法で行います。
戸籍は結婚や離婚、引っ越しの際に新しく作成されることがあります。
新しい戸籍が作成されたとき、前の戸籍に記載されていた内容の一部が記載されなくなることもあるため、調査の際には全戸籍を途切れることなく確認しなければいけません。
調査は弁護士などへ依頼することも可能ですが、相続人ご自身で行うことも可能です。

調査方法

優先的に法定相続人となるのは、配偶者と被相続人の子どもです。
そのため、まずは被相続人に子どもがいないか確認しなければいけません。
子どもがいない場合には被相続人の親や祖父母が、親・祖父母がいない場合は兄弟姉妹が、被相続人の配偶者と共に相続人になります。

調査は、被相続人の最後の戸籍から出生時の戸籍までを、途切れることなくさかのぼる方法で行います。
まず、被相続人の最後の本籍地にある役場で戸籍を取得します。
取得した戸籍には、そのひとつ前の戸籍の情報が記載されています。
その情報をもとに、ひとつ前の戸籍を取り寄せることが可能です。
これを繰り返し、故人の出生時の戸籍までさかのぼります。
すべての戸籍を取り寄せ、子どもや養子がいないか確認することで、相続人を特定できます。

調査の際には相続人を見落とさないよう注意する

調査において大切なことは、相続人を見落とさないことです。
そのためには、戸籍を正しく読み解く必要があります。

現在の戸籍は電子的に作成されていますが、古い戸籍(原戸籍)は手書きで作成されているものもあります。
記載内容や形式も現在の戸籍と異なっている部分があるため、丁寧に読み解かなければいけません。
市町村合併などにより、戸籍に記載されている「ひとつ前の本籍地」の市町村が消滅していることもあります。
戸籍を取り寄せる際は、合併後の市町村を探し出し、対応してください。

また、戸籍に記載されている情報を見落とさないことも重要です。
たとえば子どもを認知したとき、戸籍の身分事項欄には認知した事実が記載されます。
その後、本籍地を移すなど新しい戸籍を作成した際には、認知の情報が記載されなくなります。
しかし記載がなくなっても、認知した子どもがいる事実は変わりません。
忘れずに相続人に含める必要があります。

代襲相続に注意する

被相続人に子どもがおり、その子どもが先に亡くなっている場合は、子どもの子ども(被相続人の孫)が親の代わりに相続人になります。
これを代襲相続といいます。

代襲相続が発生している場合、相続の手続きを行ううえで、亡くなった子どもの出生時から亡くなるまでの戸籍も必要です。
亡くなった子どもの子ども全員が代襲相続人となるため、被相続人の相続人調査と同じように、戸籍から相続人に間違いがないことを示さなければいけません。

まとめ

この記事では、相続人調査を行うときの方法と注意点について解説しました。
相続人調査は、被相続人の出生時から亡くなるまでの戸籍をすべて調べる方法で行います。
また、相続人ご自身での調査も可能です。
しかし故人が結婚や離婚、引っ越しなどを繰り返していた場合、調査する戸籍も多くなり、手間や時間がかかります。
迅速かつ正確に相続人調査を行うには、弁護士などの専門家までご相談ください。

自己破産できない場合もある?できない条件をわかりやすく解説

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借金がふくらんで返済が難しくなったとき、自己破産を行うと、返済を免除してもらえる可能性があります。
しかしお金を貸した側が損をするため、無条件に認めてもらえるわけではありません。
この記事では、自己破産ができない条件を解説します。

自己破産とは

自己破産とは債務整理の一種です。
裁判所に破産手続きの申し立てを行い、借金の返済を免除してもらいます。
生活に必要な最低限の財産以外はすべて差し押さえられ、現金に換えられて、お金を貸した人(債権者)へ平等に分配されます。
その後、返済しきれなかった借金について返済の免除が認められると、残った借金を返済する必要がなくなります。

自己破産するには、裁判所に破産や返済の免除を認めてもらわなければいけません。
場合によっては申し立てが却下されたり、返済の免除が認められない場合もあります。

自己破産できない条件

自己破産できない条件は以下の通りです。

  • 借金の返済が不可能とはいえない
  • 借金を作った理由が免責不許可事由に該当する
  • 予納金が支払えない

そのほか、自己破産により業務が行えなくなる職種や、自己破産しても支払いが免除されない債務もあります。

借金の返済が不可能とは言えない

借金の返済が不可能とは言えない場合、自己破産は認められません。
「一時的に失業していて返済が苦しい」といった理由だけでは、認められない可能性があります。
収入だけでなく、預貯金や所有している財産すべてを考慮しても、どうしても完済できる見通しが立たない状況でなければいけません。

そのため借金総額が少額の場合には、返済が困難であると認められないこともあります。
ただし、働くことが困難であり収入の目途が立たないなど、本人にとって返済が難しい金額であると証明できるのであれば、少額でも自己破産は可能です。
一般的には、借金の総額が年収の3分の1を超過していると認められやすくなります。

免責不許可事由に該当している

借金を負った理由に問題がある場合や、手続きに際して問題行動をとった場合には、返済の免除(免責)を認めてもらえない可能性があります。

たとえば、自分の収入を超える金額をギャンブルや趣味などに使用し、結果として借金を増やした場合には、免責が認められません。
そのほか、借金の返済が困難であるとわかっていながら借金を繰り返すなど、自分の利益のために債権者へ損害を与える行為を行っていた場合には、免責を認めてもらえない可能性が高くなります。
また、破産手続きを行うにあたり、自分の所有する財産を少なく申告するなど虚偽の情報を提出した場合にも、免責は認められません。

ただし免責不許可事由に該当していても、深く反省し、生活を立て直したいという姿勢が見える場合には、裁判所の判断により免責が認められることもあります。
自己破産を認めてもらうには、裁判所の調査を妨害したり指示に従わなかったりせず、手続きに協力的な姿勢をみせることが大切です。

ただし、これまでに自己破産や個人再生の経験がある場合、前回の免責から7年を超えていない場合には免責が認められません。
たとえ7年経過していたとしても、2回目以降は1回目よりも厳しく審理されます。
そのため、2回目以降の免責は認められづらくなります。

予納金が支払えない

予納金を支払えない場合には、破産手続きの申請ができません。
自己破産の手続きには費用がかかり、申し立ての際に裁判所へ前払いする必要があります。
所有する財産を現金に換えて、債権者へ分配する手続きをとる場合には、20万円以上の予納金が必要です。
所有する財産がほとんどなく、現金に換えて分配する手続きを行わない場合には、数万円の予納金を支払います。

そのほか自己破産ができない条件

特定の職業では、自己破産手続き中はその資格を行使できなくなります。
次のような職業が該当します。

  • 警備員
  • 宅建士
  • 公証人
  • 税理士

これらの職業は破産手続きが開始された際に届け出を行う必要があり、それによって資格の登録が取り消されます。
その後、免責が認められると、再びその資格の登録が可能になり、業務を再開できるようになります。
また、債務のなかには、支払いが免除されない債務もあります。

  • 税金
  • 健康保険料
  • 損害賠償
  • 雇用していた従業員の給料
  • 養育費

これらは免責の対象にならないため、破産後も支払い続けなければいけません。
この条件を総合的に考え、自己破産が適切かどうか判断する必要があります。

まとめ

この記事では、自己破産できない条件について解説しました。
自己破産は返済の目途がたたない状況でなければできません。
また、手続きに非協力的な場合は、返済の免除が認められない可能性もあります。
そのほか、破産の手続き中に資格を失う職業や、支払いが免除されない債務も存在します。
自己破産が適切かどうかの判断は、専門家である弁護士までご相談ください。

交通事故であとから痛みが出てきたときの対処法

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交通事故によって怪我を負った場合、事故直後は症状を感じなかったとしても、あとから症状を感じることが少なくありません。
事故直後に病院を受診せず、保険会社にも「怪我はない」と伝えていた場合、あとから症状が出てきた際には、どのように対応するべきでしょうか。
この記事では、交通事故であとから痛みが出てきたときの対処法について解説します。

事故から数日後に痛みを感じることもある

交通事故にあったとき、あとから身体の異変を感じることがあります。
たとえば、むちうち症は外部に目立った症状が現れず、一見すると無傷のように見えます。
怪我を負った本人も事故直後は興奮状態にあり、痛みを感じないことが少なくありません。
そのため、その場では「怪我なし」として、対応するケースがあります。
しかし事故から時間が経ち、興奮状態が落ち着いてくると、症状を感じ始めることがあります。

事故と症状の因果関係

事故によって怪我を負ったときには、加害者に治療費や慰謝料などを請求できる可能性があります。
しかし、そのためには症状と交通事故の因果関係が認められなければいけません。
ただし事故から時間が経過すると、症状と事故の因果関係が認められづらくなります。
そのため痛みが出はじめたときには、早めに行動する必要があります。

あとから痛みが出たときにやるべきこと

交通事故後、あとから症状が出始めた場合にやるべきことは以下の通りです。

  • 速やかに病院を受診する
  • 双方の保険会社へ連絡する
  • 物損事故から人身事故へ切り替える
  • 医師の指示に従い通院する

速やかに整形外科を受診する

まずは速やかに医療機関を受診することが大切です。
痛みを放置し、適切な治療を行わないでいると、症状が悪化する恐れがあります。
身体の内部だけに異常がある場合、外から見ただけでは異常に気付けません。
レントゲンなどの検査を受けると、内部の異常を見つけられます。

保険会社や警察に対応を依頼する際には、診断書の提出を求められます。
診断書の作成は医師にしかできないため、受診の際は整骨院ではなく、整形外科など医師が在籍する病院を選んでください。
また、事故から初診までに時間がかかると、怪我が事故によるものか判断できなくなる恐れがあります。
とくに事故発生後2週間以上経過してから初めて受診した場合、その症状が事故を起因としたものと認められなくなる可能性が高くなります。
少しでも違和感を覚えた際には、念のため受診しておくと安心です。

さらに、怪我を負った日から時間が経過するほど、怪我が治り始める可能性が高くなります。
検査の結果、事故当時よりも軽い怪我として診断されることとなり、その分請求できる慰謝料が少なくなります。
早めに受診すれば怪我の程度を正しく診断でき、それに見合った慰謝料の請求が可能です。

保険会社や警察署へ連絡する

自分の加入する保険会社と、相手の加入する保険会社への連絡も必要です。
すでに物損事故としての手続きが始まっている場合、人身事故に切り替えなければ、治療費が支払われないなどのトラブルにつながります。

保険会社に人身事故として対応してもらうには、警察への届け出を物損事故から人身事故に切り替えなければいけません。
事故当時に担当してくれた警察署に切り替えを申請し、必要な手続きを行ってください。
ただし、事故発生から時間が経過するほど切り替えが受理されづらくなります。
警察署により異なりますが、事故発生からおおむね10日以内に申請する必要があるとされます。

人身事故として処理されると、人身事故の記載のある事故証明書を取得できます。
これを保険会社へ提出することで、保険会社に人身事故として対応してもらえます。
もしも警察に切り替えを認めてもらえなかった場合には、保険会社に「人身事故証明書入手不能理由書」を提出することで、人身事故として対応してもらえる可能性もあります。

医師の指示に従って通院する

初診後は、医師の指示に従い適切に通院します。
勝手に通院をやめると、損害賠償請求の際に不利になる場合があります。
万が一症状が固定し、後遺障害が残るような状況になったときには、後遺障害の認定を受けることになります。
後遺障害の等級は医師が作成した診断書の内容によって判断されるため、医師の指示通り通院し、治療や症状の記録を残しておく必要があります。

まとめ

この記事では、交通事故であとから痛みが出てきたときの対処法について解説しました。
痛みや違和感を覚えたときは、すぐに病院を受診することが大切です。
適切な対応を取らずにいると、症状が悪化するだけでなく、本来得られるはずだった損害賠償を請求できなくなる可能性があります。
とくに、事故発生から初診までの期間が長くなるほど、保険会社との交渉も難しくなります。
交通事故後、あとから症状が出てきた場合には、専門家である弁護士までご相談ください。

電子契約書は法的に有効なのか?

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契約を結ぶ際、紙で作成した契約書を使用するのではなく、電子的な契約書を導入する企業が増えています。
しかし、電子契約書は法的に有効といえるのでしょうか。
この記事では、電子契約書の法的な効力や、電子契約書を保存するうえでの決まりを解説します。

電子契約書とは

電子データを用いて契約を結び、電子的なやり取りで作成された契約書が、電子契約書です。
一定の要件を満たしている場合、電子契約書に法的な効力を持たせることが可能です。
紙による契約書では署名や押印によって法的な効力を持たせますが、電子契約書では電子署名やタイムスタンプを施すことにより法的な効力を持たせます。

法的な効力を持たせるための要件

電子契約書に法的な効力を持たせるための要件は次の通りです。

  • 電子文書に電子署名を施している
  • 本人だけが使用できる電子署名である
  • 電子署名を施したあと、データが改ざんされていないことを証明できる

電子的なファイルに対する本人確認や、内容の改変がないことの証明は、紙と同じ方法ではできません。
そのため、特別な認証システムを利用し、電子署名が本人によって作成されたものであることや、署名後に内容が改変されていないことを証明する必要があります。

電子署名

電子署名を利用するには、電子署名サービス業者を利用する方法と、認証局によって発行された電子証明書を使用する方法があります。
電子署名サービス業者を利用する方法では、業者が立会人となり、本人確認や同意の意志を確認して、電子署名をほどこします。
その効力は、認印と同程度であることが一般的です。
メールアドレスなどを用意するだけで簡単に利用できるため、導入しやすい方法です。

一方、電子証明書を利用するには、認証局などに電子証明書の発行を申請し、取得しなければいけません。
申請や発行には手間や時間がかかりますが、電子証明書には実印並みの効力があります。
たとえば、法務局が発行している会社代表の電子証明書は、法人の登録印に相当する効力があります。
一般的に実印が必要とされる契約書には、電子証明書を用いた電子署名を行うことが適切です。

タイムスタンプ

契約の締結後にデータの改ざんがないことを証明するため、タイムスタンプを使用します。
タイムスタンプを付与することで、付与した日時にそのデータが存在していたことと、それ以降データが改ざんされていないことの双方を証明できます。
タイムスタンプを付与するには、タイムスタンプの発行業者と契約しなければいけません。

ただし、電子データの訂正・削除ができないシステムや、訂正・削除の履歴が残るシステムを利用している場合、タイムスタンプは不要です。
また、タイムスタンプが付与された契約書を取引先から受け取った場合も、自社でタイムスタンプを付与する必要はありません。

電子契約書の保存

電子契約書の保存方法は、電子帳簿保存法によって決められています。
電子契約書を送付・受領したときは、一定の要件を満たした状態で保存しておかなければいけません。
その要件は次の通りです。

  • 改ざん防止の措置をとる
  • 保存データを確認するためのディスプレイやプリンタを用意する
  • 日付・金額・取引先の要素で検索できる

改ざん防止の措置

タイムスタンプの付与や、訂正・削除の履歴が残るシステムを利用することは、改ざん防止の措置に該当します。
そのほか、自社で改ざん防止のための事務処理規程を作り、それを運用することも改ざん防止措置として認められます。
規定を作成することで、新しいシステムを導入せずに電子帳簿保存法に対応できます。

データを確認できるようにする

電子契約書は紙に印刷して保管するのではなく、サーバやクラウド上に電子データとして保存しておく必要があります。
そのうえで、必要に応じてすぐにディスプレイで読める、印刷できる等の状態にあることが必要です。
従業員が速やかに書類へアクセスし、必要な形で契約書を出力できるよう、システムの操作マニュアルやプリンタを用意しておく必要があります。

データを検索できるようにする

沢山の電子契約書の中から必要な書類をすぐに探し出せるよう、検索機能の設定も必要です。
取引年月日、取引先、取引金額の3要素について検索できなければいけません。
そのほか、2つの要素を組み合わせて検索する機能や、日付や金額の範囲を指定して検索できる機能が必要です。

まとめ

この記事では電子契約書の法的効力や、保存方法の決まりについて解説しました。
電子的に作成された電子契約書は、電子署名やタイムスタンプを活用することにより法的な効力を持たせることが可能です。
たとえば電子証明書の利用により、実印と同程度の効力が認められます。
電子契約書は作成時だけでなく、保存方法の決まりも守らなければいけません。
電子契約の導入をお考えの際には、専門家である弁護士までご相談ください。

清算的財産分与の対象や割合について

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離婚時、夫婦の共有財産を夫婦で公平に分ける仕組みが、清算的財産分与です。
たとえ夫婦どちらかの名義の財産であったとしても、それが夫婦の協力によって築かれた財産であれば、清算的財産分与の対象です。
この記事では、清算的財産分与の対象や、分配するときの割合について詳しく解説します。

清算的財産分与とは

夫婦が協力して築いてきた財産は、基本的に、離婚時に公平に分配します。
それは共働きであっても、どちらかが専業主婦(主夫)であっても変わりません。
たとえ専業主婦であっても、家事や育児を担うことで就労していた相手の生活を支えていた場合には、夫婦で協力して財産を築いてきたといえます。
そのため清算的財産分与では、財産を2分の1ずつ分け合うことが基本です。

財産形成の貢献度に応じて分配割合は変わる

分配するときの割合は、財産形成への貢献度に応じて変わります。
たとえば夫婦のどちらかが収入もなく、家事や育児も行っていなかった場合、財産形成に貢献していたとはいえません。
この状況で財産を2分の1ずつ分けることは不公平です。
そのため貢献度が低い場合には、分配割合が少なる可能性があります。

また特殊な資格や技術によって多額の収入を得ていた場合、その人は財産形成への貢献度が高いといえます。
その資格がなければ、それだけの収入を得られなかったと考えられるためです。
たとえば医師や弁護士など資格を生かした職業や、危険をともなう職業など、その特殊性とそれに対する報酬額によって、分配割合が変動する可能性があります。

そのほか、マイナスの貢献も考慮されることがあります。
どちらか一方が莫大な金額を浪費した場合、分配割合に影響を与えることがあります。

財産分与の対象となる期間

清算的財産分与は、婚姻期間中、夫婦が協力して家庭を築いていた期間に形成された財産を公平に分け合います。
そのため夫婦関係が破綻し、別居していた場合には、別居するまでの間に築いた財産を分け合うことになります。
離婚が成立していなくても、別居後に築いた財産は、夫婦それぞれの特有財産として認められます。

清算的財産分与の対象となる財産

対象となるのは、夫婦が協力して築いてきた財産です。
そのため、それぞれが結婚前から所有していた財産は分け合う必要がありません。
また結婚後に得た財産であっても、夫婦のどちらかが相続や贈与などによって得た財産は個人のものであると認められ、分与の対象外です。
さらに、夫婦の合意によって「個人の財産である」と認めた財産については、分与の対象から除外できます。

具体的な財産の例

清算的財産分与の対象となる主な財産は以下の通りです。

  • 預貯金
  • 不動産
  • 有価証券
  • 生命保険
  • 退職金
  • 家財道具

不動産の名義が夫婦どちらかの単独名義であったとしても、分与の際には相手にその価額分の財産を分配する必要があります。
夫婦どちらかが不動産を取得し他方には現金を渡す方法や、不動産を売却してその売却益を分配する方法によって分配します。

退職金

将来支給される予定の退職金も財産分与の対象です。
退職金は、労働の対価の一部を後払いする仕組みであると考えられます。
そのため、婚姻期間中に働いた分の退職金は夫婦で分配できます。
退職金の分配は、原則として離婚時に行います。
しかし実際に企業から退職金が支払われるのは退職時であり、離婚時には手元にありません。
経済的な理由により離婚時に分配することが難しい場合には、夫婦の合意のもと、分割払いや退職時に支払うなどの取り決めを行うことも可能です。

個人年金と厚生年金

個人年金は生命保険などの契約と同じものと考えられ、財産分与の対象です。
個人年金を解約した場合に得られる解約返戻金の額を分与の対象額とします。

一方、社会保険の一種である厚生年金は財産分与の対象にはなりません。
ただし、保険料の納付実績を夫婦で分割することは可能です。
専業主婦歴が長く厚生年金保険料の納付実績が少ない場合には、将来的にもらえる年金額が少なくなります。
そうならないよう、年金分割手続きをして納付実績を分け合っておくことで、将来に備えられます。
対象となるのは婚姻期間中の厚生年金部分であり、基礎年金や私的年金部分は対象外です。
専業主婦や扶養の範囲内で働いているなど第3号被保険者であれば、配偶者の合意がなくても2分の1ずつ年金分割できます。

まとめ

この記事では清算的財産分与について解説しました。
婚姻期間中に夫婦で協力して築いた財産は、基本的に2分の1ずつ分配できます。
ただし財産形成への貢献度の違いによって、分与の割合が変わることもあります。
現金や不動産など現在手元にあるものだけでなく、将来的に支払われる予定の退職金も財産分与の対象です。
対象となる財産や分与の割合は状況によって異なるため、財産分与を行う際には専門家の弁護士までご相談ください。

家族に遺産を相続させたくない場合の対処法を詳しく解説

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家族関係の悪化や遺産を特定の人に譲りたいなど、さまざまな理由から家族に遺産を相続させたくないと考える方もいらっしゃるかもしれません。
遺産相続における基本的な法律の知識を得ることで、どのような方法を選ぶべきか、自身の望む相続を実現する方法がわかります。
本記事では、家族に遺産を相続させたくない場合の対処法について、具体的な手段を取り上げながら解説します。

相続の基本と家族の法定相続権

まず初めに、相続の基本となる家族の法定相続権について説明します。

家族には一定の相続権がある

結論から言うと、遺産を相続させたくないからと言って、一方的にその人の相続権を奪うことはできません。
なぜなら、家族には一定の相続権があるからです。
民法では、亡くなった人(被相続人)の財産を相続できる人が定められており、この相続権を持つ人(法定相続人)は配偶者、子、親、被相続人の兄弟姉妹と規定されています。
また、相続権には優先順位があり、常に相続人となる配偶者以外では第1順位として子が優先され、次に親、兄弟姉妹と続きます。
相続制度は、被相続人の意思を尊重する一方で、相続人の生活を保障するという目的も兼ね備えているため、被相続人が一方的に相続人の相続権を奪うことはできません。

遺留分を侵害することはできない

遺留分とは、民法で定められた相続財産の一部を、法定相続人(兄弟姉妹を除く)が最低限相続できる割合です。
これは遺族の生活を保障するために定められた制度で、仮に長男に一銭も相続させたくないと考えたとしても、最低限保障されている遺留分を侵害することはできません。

遺産を家族に相続させたくない場合の対処法

それでは、具体的に遺産を家族に相続させたくない場合の対処法について1つずつ解説していきます。

遺言書を作成する

遺言書は、財産をどのように分配するか自身の意思を明示するもので、民法上では相続人に含まれない内縁関係の人、血縁関係のない人などに遺産を分配することができます。
これを遺言相続と呼び、遺言書が存在する場合は法定相続分に優先して記載の割合で分配されるため、相続させたくない相手には相続をしない旨を明示することができます。
ただし、先述した通り法定相続人(兄弟姉妹を除く)には遺留分が認められているため、遺留分侵害請求を申し立てられれば、全く相続させないということはできません。
あらかじめ、遺留分に相当する額を相続するとしておくことが有効でしょう。

生前贈与を活用する

生前贈与としての遺贈(遺言書によって財産を相続人以外の個人や団体に譲り渡すこと)や死因贈与(贈与者が死亡したときに財産を特定の人へ渡すこと)により、遺産を第三者などに譲り渡す方法もあります。
ただし、遺言相続の場合と同様、法定相続人には遺留分が認められているため、兄弟姉妹を除く法定相続人の相続分を完全にゼロとすることはできません。

家族信託を活用する

家族信託とは、信託法に基づいて信頼できる家族に財産を託し、老後の生活や介護に必要な資金を管理するなどの目的に応じて財産を運用、処分を任せる制度です。
自分が亡くなったときに財産を受け継ぐ人を指定することができるだけではなく、遺言相続とは異なり、さらに次の相続先を指定しておくことも可能です。
たとえば、自身が死亡した際は財産を後妻へ相続させ、後妻が亡くなった後は前妻との間に生まれた息子に引き継がせるようにすれば、自分とは血縁関係のない後妻の家族などに財産を渡さずに済みます。
ただし、家族信託で設定された受益権が遺留分に含まれることがあります。
財産を預ける人を「委託者」、預かる人を「受託者」と呼び、委託者は信託財産から利益を受け取る「受益権」を有しますが、受益権を委託者ではない人に設定するとみなし相続財産と判断され、著しく金額が大きい場合には遺留分の計算に含めなければならない可能性があります。

相続人を廃除する

遺産を相続させたくない相続人の相続権を奪う方法として、相続廃除という方法があります。
ただし、この方法は家庭差番所への申し立てによって強制的に相続権をはく奪する制度なので、次のような要件を満たす必要があります。

・被相続人に対して虐待をした
・被相続人に対して重大な侮辱を加えた
・被相続人の財産を不当に処分した

したがって、「長男は自分の面倒をみてくれないから相続させたくない」といった程度の理由では相続廃除することはできません。
相続廃除を行うには生前に家庭裁判所へ申し立てる方法と、遺言に記載しておき、遺言執行者によって申し立てを行う方法とがあります。

まとめ

遺産を家族に相続させたくない場合の方法について解説しました。
遺産相続に関するトラブルを防ぐために、相続についての基本的な知識を身につけ、早めの対策をとることが重要です。
自分の意向を実現するために適切な手段を選ぶ必要がありますが、必要に応じて弁護士などの専門家に相談することでスムーズな相続を行うことができるのではないでしょうか。

個人再生の手続きと流れを詳しく解説

債務整理

個人再生は債務整理の一種であり、借金返済の負担を大幅に軽減できる手続きです。
また、家を守りながら借金整理を進めたい人にとっては有効な選択肢となります。
本記事では、個人再生の手続きと流れについて詳しく解説します。

個人再生とは

個人再生とは、裁判手続きを利用した債務整理の一種で、借金の返済が困難になった場合に、全ての債権者に対する借金総額を減額し、その減額後の金額を原則として3年間で分割返済する計画を立てる手続きです。
この計画は、債権者の意見を考慮したうえで裁判所が認めた場合に実行され、計画通りに返済を進めることで、養育費や税金など一部を除く残りの債務が大幅に免除されるというメリットがあります。
また、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用することで、住宅ローンを継続して返済し、住宅を処分されないようにすることができます。
ただし、任意整理と異なり、すべての債務が手続きの対象となるため、車やバイクのローンが残っている場合は手放さなければならない可能性があります。
また、信用情報に個人再生の手続きを行ったことが登録されてしまうため、約5~10年間はクレジットカードの新規作成や新たな借り入れができなくなるというデメリットもあります。

個人再生の種類と利用条件

個人再生の手続きには、次の2種類があります。

A.小規模個人再生
B.給与所得者等再生

「小規模個人再生」は主に個人商店や個人事業主を対象とした手続きで、利用条件として負債総額(住宅ローンを除く)が5000万円以下であること、将来的に安定した収入の見込みがあることとなっています。
また、「給与所得者等再生」は一般的に会社員などのサラリーマンを対象としており、Aの条件に加えて収入が給料などで、その金額が安定していることなどがあります。
この2つの違いは、返済していく金額を決める基準と、債権者の同意の有無です。

個人再生手続きの流れ

それでは、個人再生の具体的な手続きと流れについて解説します。
手続きは裁判所を通じて行われますが、裁判所が定めた期間内に行う必要があり、積極的に財産状況を公開しなければならないなど手続きを主体的に進める必要があるため、多くは弁護士に依頼します。

1.受任

受任通知(債務整理について弁護士が介入したことを知らせるもの)をそれぞれの債権者へ発送し、以後の取り立てや返済を停止します。
また、受任通知と同時に取引履歴の開示請求を行い、債権の金額や内容を確認します。

2.債務状況の調査

債務や資産の状況を調査し、取引履歴をもとに借金の額を確定します。
このとき、過払い金が発生している場合は過払い金の返還請求を行います。

3.必要書類の準備と裁判所への申し立て

必要な書類は資産状況などによって異なりますが、おおむね次の通りです。

・申立書
・陳述書
・債権者の一覧表
・添付書類(給与明細、源泉徴収票、財産目録、戸籍謄本、住民票など)

申立書については、収集した書類をもとに弁護士が作成します。
申立書を居住している地域を管轄する裁判所へ提出し、同時に住宅ローン特則の利用希望があれば、その旨も申請します。

4.個人再生委員の選任と再生手続き開始決定

申し立て後、個人再生委員が選任されます。
個人再生委員が選任されるかどうかは裁判所によって異なりますが、手続きに精通した弁護士が選ばれ、債務者の収入や財産を調査したり、再生計画案の作成について必要なサポートをしたりします。
個人再生委員との面談や、再生計画の通りに返済が可能かどうかのテスト(履行テスト)を行った後、個人再生委員の意見を踏まえた上で裁判所が再生手続きの開始を決定します。

5.再生計画案の作成と提出

債権者や財産の変動などを調査し、債権額を確定した上で弁護士が再生計画案を作成します。
個人再生委員がいる場合はあらかじめ確認してもらい、裁判所に提出します。
再生計画案には提出期限があり、期限内に提出できないと事情に関わらず手続きが廃止となってしまうため注意が必要です。

6.債権者の決議と再生計画案の認可決定

債権者および裁判所が計画案を審査し、問題がなければ再生計画案が認可されます。
小規模個人再生では、裁判所からそれぞれの債権者に対して再生計画案と議決書が郵送され、書面による決議(給与所得者等再生では意見聴取)が行われます。
債権者の半数以上の反対がなく、かつ反対した債権者の債権額が全債権額の2分の1を超えていなければ可決となり、個人再生委員からの意見書などを踏まえ、裁判所が再生計画の認可を決定します。

7.認可決定の確定と返済開始

認可決定の約1ヶ月後に、認可決定が確定して効力を持ちます。
弁護士との契約は終了となり、認可決定が確定した翌月から再生計画に基づいた返済を開始します。
3年間で減額した借金を完済できれば、残りの借金返済の義務が免除されることになります。

まとめ

個人再生の手続きと流れについて詳しく解説しました。
個人再生は借金の大幅な減額が可能な救済制度ですが、債務整理にはさまざまな方法があるため、個人再生が自分にとって適切な選択肢であるかどうかを見極めることが重要です。
手続きも煩雑なため、最適な選択肢を検討するためにも早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

交通事故における慰謝料の種類とは

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交通事故に遭うことは、被害者にとって身体的な苦痛だけでなく、精神的な負担も大きなものとなります。
この精神的苦痛に対して支払われるのが「慰謝料」ですが、その種類や金額の計算方法にはさまざまな違いがあり、正しい知識を身につけることで、適切な補償を受けられる可能性が高まります。
本記事では、交通事故における慰謝料の種類について具体的に解説します。

交通事故における慰謝料とは

交通事故における慰謝料とは、被害者が事故によって受けた精神的な苦痛を補償するために支払われる金銭(損害賠償金)のことを指します。
交通事故により怪我を負ったり、後遺症が残ったり、最悪の場合は死に至ったりすることで、被害者や遺族は大きな不安や恐怖など、精神的な負担を抱えることになります。
民法第709条において、「故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した者は、その結果生じた損害を賠償する責任を負う」と定められており、この規定に基づいて被害者の精神的苦痛を金銭的に補填する仕組みが慰謝料なのです。
また、慰謝料は精神的な苦痛に対する補償であるため、治療費や物的損害の補償とは別に請求することが可能です。

交通事故における慰謝料の種類

それでは、具体的に交通事故における慰謝料の種類をご紹介します。
事故に遭った場合に請求できる慰謝料は、次の3種類に分けることができます。

  1. 入通院慰謝料
  2. 後遺障害慰謝料
  3. 死亡慰謝料

1つずつ詳しく見ていきましょう。

1.入通院慰謝料

入通院慰謝料は、入院や通院による精神的苦痛に対する補償です。
入院や通院の期間に応じて支払われるのでこのように呼ばれますが、被害者が怪我を負うと発生するものなので、治療を行えば請求することができます。
ただし、入院や通院により治療を受けた場合に限って認められるものなので、怪我をしても病院に行かなければ支払いは受けられません。
入通院慰謝料の金額は、通院頻度や治療期間、症状固定(治療を継続しても症状の改善が見込めない状態)までの状況などが考慮されます。

2.後遺障害慰謝料

次に、後遺障害慰謝料とは交通事故により後遺障害が残った場合の補償です。
「後遺障害」とは、後遺症の中でも交通事故が原因と証明され、労働能力が低下(喪失)した状態を指し、部位や程度によって等級に分類されています。
後遺障害が残ると、被害者はその障害を抱えて生きていかなければならないため、入通院慰謝料とは別に請求することができます。
後遺障害慰謝料の金額は、後遺障害の等級を基準として算定されます。

3.死亡慰謝料

死亡慰謝料は、交通事故により被害者が死亡した場合の慰謝料です。
死亡した本人が受けた精神的苦痛と遺族(配偶者、子ども、親など)が受けた精神的苦痛は別のもと考えられており、それぞれに請求する権利があります。
死亡慰謝料の金額は、被害者の年齢や職業、家族構成、扶養家族の有無などが考慮されます。

慰謝料の算定基準と金額の違い

慰謝料の算定には、以下の3つの基準があります。
どの基準を採用するかによって金額が大きく変わるため、注意が必要です。

・自賠責基準…国が定める基準
・任意保険基準…任意保険会社が交渉に用いる基準
・弁護士基準…弁護士や裁判所などが交渉に用いる基準

任意保険に加入していて保険会社を通じて慰謝料を請求する場合は、自賠責基準や任意保険基準が適用されることが一般的です。
自賠責基準は、国の定める基本的な対人賠償を目的としているため最も支払い額が低く、任意保険基準も保険会社によって差があり、弁護士基準より低い傾向にあります。
一方、弁護士基準は過去の判例に基づいて算定されるため、実際の被害に見合った慰謝料が支払われる可能性が高くなります。

慰謝料請求の流れ

慰謝料を請求する場合、基本的には以下のような流れになります。

  1. 入通院による治療と必要な書類の準備(事故証明書、診断書など)
  2. 怪我が完治しない場合は後遺障害の申請
  3. 示談交渉

示談交渉は、基本的に相手方の保険会社と行うことになります。
相手方から損害賠償額(示談金)の提示があり、納得がいかない場合は交渉を重ねるという流れです。

慰謝料請求には時効がある

最後に、慰謝料請求で注意すべきことをご紹介します。
交通事故の慰謝料請求には時効が存在します。
事故の態様によって起算日が異なりますが、人身事故の場合は事故の翌日から、後遺障害がある場合は症状固定から、死亡事故の場合は死亡した翌日から起算して5年間と定められています。
時効が成立すると慰謝料を請求することができなくなるため、示談交渉が長引く可能性がある場合には、時効を中断する手続きをとるなど、対策を講じる必要があります。

まとめ

交通事故における慰謝料の種類について解説しました。
交通事故の慰謝料には3つの種類があり、金額は基準や状況によって大きく変わるため適切な手続きを踏むことが重要です。
請求や交渉は専門家の力を借りることで、有利に進められる場合があるので、早めに弁護士へ相談してみてはいかがでしょうか。

コンプライアンスを重視すべき理由とは

企業法務

現代の企業には、高いコンプライアンス意識が求められています。
その背景には、さまざまな企業の不祥事に対するマスメディアや消費者の批判と、適切なリスク管理により企業価値を高められるという考え方が世界的に広がったことがあげられます。
本記事ではコンプライアンスを重視すべき理由について、コンプライアンスを実践するための具体策とあわせて解説します。

コンプライアンスとは何か

コンプライアンスには本来、企業などが法令や規則を守ること(法令遵守)という意味があります。
「法令」とは、憲法や法律、行政機関が発する命令、規則、条約、地方自治体の条例などを総称する言葉であり、「法令遵守」とは国や地方自治体が定めた法令などに背かず、よく守ることです。
しかし、近年になってコンプライアンスの意味がより大きく捉えられるようになり、基本的には以下にあげる3つの要素を含んでいます。

・法令
・社会倫理
・社内規則

コンプライアンスを重視すべき理由

それでは、コンプライアンスを重視すべき理由を順番に解説します。

法律違反によるリスク回避

コンプライアンスの中でも法令を遵守することが基本となる部分であり、企業活動を行う上で法律違反が引き起こす罰則や制裁を回避することができます。
また、日頃から法令遵守の意識を高めることで、随時改正される法令にも迅速に対応することができます。

企業の信頼性を確保するため

企業は、顧客や取引先だけではなく、投資家や従業員により経営を行うことができます。
コンプライアンスがきちんと守られておらず、不正が横行するような企業であれば、顧客や取引先からの信頼を得ることはできません。
さらに、優秀な人材を確保できなくなるだけではなく、投資家や金融機関からの資金が得られないといったリスクを抱えることになります。

従業員の働きやすい環境づくり

コンプライアンスが守られることで、ハラスメントや不正のない健全な職場環境が実現できます。
社内規定や就業規則を整備して従業員に周知することは、社内の秩序を保つこと以外にも従業員間の賃金や処遇の公平を実現することにも寄与し、従業員が安心して働くことができます。
また、健全で働きやすい環境であれば従業員の責任感や意欲を高め、生産性の向上へとつながります。

長期的な企業成長への寄与

短期的な利益を追求してコンプライアンスを軽視する企業は、重大なミスが発生した際に対応が遅れ、より大きな問題に発展する恐れがあります。
このような企業は長期的な成長を見込むことができず、持続可能な経営を実現することができません。
また、企業は社会の一員として環境や人権などに配慮し、社会貢献を行う責任があると考えられています。
これを企業に求められる社会的責任(Corporate Social Responsibility=CSR)と呼び、自社の利益だけを追求していると社会から取り残され、持続的に発展することができません。

コンプライアンス違反の事例

コンプライアンス違反の事例は、大きく分けると次の4つに分類することができます。

・労働問題
・法令違反
・不正経理
・情報漏えい

過重労働や各種ハラスメントなど、労働問題に関するコンプライアンス違反は複数の要素が原因となっている場合が多く見られます。
また、法令違反は小さなものを積み重ねることで取り返しがつかなくなるケースが多く、この程度の違反なら、と見過ごさないようにすることが重要です。
架空請求や粉飾決算、業務上横領といった不正経理は、取引先や関連企業など広い範囲に被害を与えるため、最終的には経営破綻に至るケースがあります。
情報漏えいは、社員が秘匿性の高さを認識せずに情報を扱い、顧客情報の流出を起こしてしまうケースです。
情報漏洩は、社会的信用を失墜させるのに十分なコンプライアンス違反のため、セキュリティー対策に力を入れている企業が増加しています。

コンプライアンスを実践するための具体策

それでは、コンプライアンスを実践するための具体的な対策を解説します。

社内規定の整備

まずは、きちんと社内規定や就業規則などのルールを整備することが重要です。
コンプライアンスの基準である法令や社会倫理は、時代に応じて変化します。
最新の基準と照らし合わせ、コンプライアンス違反がないか常にアップデートしていく必要があるため、定期的な法令遵守のチェックと外部監査を活用した第三者視点の評価を行うことが重要です。

従業員教育の強化

社内規定などのルールを整備した上で従業員へ周知することで、コンプライアンスの意識を浸透させる必要があります。
そのためにも、定期的なコンプライアンス研修の実施と、従業員がルールを守りやすい環境づくりが必要不可欠です。

内部通報制度(相談窓口)の整備

内部不正や問題行動を報告するための相談窓口を設置します。
コンプライアンス違反は従業員からの相談や指摘で発覚する場合が多いため、相談窓口を設けることで大きな問題になることを防ぐ役割を果たします。
また、相談窓口を設置する場合は従業員が相談しやすい環境を整備することが重要であり、相談者は公益通報者保護法による保護の対象となります。

まとめ

今回は、コンプライアンスを重視すべき理由について解説しました。
コンプライアンスは単なる「守るべきルール」ではなく、企業の成長戦略の一部と捉えることができます。
法律だけでなく、倫理や社会的責任も重視する姿勢が求められるため、すべての従業員が一丸となり取り組むことが必要です。
コンプライアンスについて何か心配がある場合は、法律の専門家である弁護士への相談も検討してみてはいかがでしょうか。

離婚後にトラブルにならないためには

離婚

離婚後も元配偶者との間でトラブルが起きるケースがあります。
たとえば、養育費の未払いや面会交流のトラブルなどです。
本記事では、離婚後のトラブルを防ぐために注意すべきポイントをトラブルが発生した場合の対処法とあわせて解説します。

離婚後に起こりやすいトラブル

まず初めに、離婚後に起こりやすいトラブルを具体的に見ていきましょう。

1.養育費の未払い

最も多く見られるトラブルとして、養育費の未払いがあります。
離婚の際に取り決めたものの途中で支払いが滞るケースとして、養育費を支払う親が再婚したり収入が下がってしまったりなど、環境の変化によることが考えられます。
また、離婚の際に養育費についてきちんと取り決めをしなかった場合もトラブルに発展する可能性があります。
親は未成年の子どもに対して、自分と同じ水準の生活を保障する義務(生活保持義務)があるため後から請求することは可能ですが、離婚時に養育費の取り決めがなされていなかった場合では、さかのぼって請求することは難しいと言えます。

2.面会交流の制限や拒否

離婚後に子どもと面会させてもらえない、という事例もよくあるトラブルの1つです。
親権者とならなかった親には子どもとの面会交流権が認められていますが、面会交流の方法について明確なルールはなく、子どもの年齢や居住場所、生活状況などを考慮して話し合いにより取り決めるのが実情です。
したがって、面会の際に暴力や虐待があるなどの明確な拒否理由がなければ、協議による調整が望ましいですが、それでも解決できない場合は調停を申し立てることができます。

3.財産分与の不履行

3つ目は、財産分与に関するトラブルです。
財産分与は離婚の際に財産を公平に分配する制度ですが、離婚した後の生活を保障するという性質や離婚原因を作ったことへの慰謝料の意味合いがあります。
したがって、夫婦どちらかの名義の財産でも夫婦が協力して築いたものであれば対象となりますが、現金以外にも不動産や自動車なども対象となるため、公平に分配することが難しいという側面があります。
また、早く離婚したいという気持ちから、財産分与についてしっかり取り決めをせず離婚してしまったというケースも見られます。

離婚後のトラブルを防ぐためのポイント

それでは、具体的に離婚後のトラブルを防ぐためのポイントをご紹介します。

1.離婚時の取り決めは公正証書にする

協議離婚(話し合いによる離婚)の場合、養育費や財産分与などの離婚条件を取り決める際は口約束ではなく、法的効力を持つ公正証書にまとめることが重要です。
公正証書とは、個人や法人の依頼に基づいて公証人が作成する文書で、反証のない限り強力な証拠力があります。
ただし、養育費の未払いなど、金銭の授受に対して家庭裁判所の手続きを経ることなく強制執行をするには、公正証書に「直ちに強制執行を受けることに従う」といった文言(強制執行認諾文言)を記載する必要があります。
なお、家庭裁判所で離婚調停を行うなど裁判所を通じて離婚をした場合には、強制執行力のある「調停調書」を作成するので、公正証書を作成する必要はありません。

2.離婚後の連絡手段やルールを明確にする

元配偶者とのやり取りをスムーズにするため、連絡方法を事前に取り決めておくことも重要です。
特に、面会交流については子どもに対する影響を考慮する必要があります。
面会交流の頻度だけではなく、宿泊や旅行、学校行事への参加など、細かい部分までルールとして決めておけば、後のトラブルを防ぐことになります。
感情的な対立により連絡や話し合いが難しい場合は、弁護士や専門機関など第三者を介する方法もあります。

3.専門家への相談を活用する

離婚後のトラブルが心配なら、あらかじめ弁護士など専門家のサポートを受けることも視野に入れましょう。
離婚の際にきちんと話し合っておけば防げるトラブルも多く、専門家の力を借りることでスムーズに解決することができるだけでなく、万が一トラブルが発生した場合もすぐに対処することができます。

離婚後にトラブルが発生した場合の対処法

最後に、離婚後にトラブルが発生した場合の対処法について簡単に解説します。

養育費の未払いが発生した場合

養育費の未払いは、協議で取り決めた場合は支払日から5年、調停や審判などの裁判所の手続きで取り決めた場合は支払日から10年を経過する前に請求できます。
まずは相手と連絡を取って督促することが考えられますが、支払いに応じてもらえない場合は交渉や調停へと移ります。
また、離婚調停などで調書を作成している場合は、その調書を用いて履行勧告や履行命令、強制執行といった方法をとることができます。

面会交流のトラブル

上述したように、まずは話し合いによる解決が望ましいですが、それでも解決しない場合は面会交流調停を申し立てることができます。
調停を活用し、面会条件を再設定することが重要です。

財産分与が進まない場合

財産分与について、話し合いがまとまらない場合や話し合いができない場合は、離婚後2年以内であれば家庭裁判所に調停の申し立てをすることで請求が可能です。
また、調停でも話し合いがまとまらなかった場合には自動的に審判へ移行します。

まとめ

離婚後にトラブルにならないために注意すべきポイントについて解説しました。
離婚後のトラブルを防ぐには、離婚時の取り決めを明確にし、法的に対応できる準備を整えておくことが重要です。
適切なコミュニケーションを心がけることで防ぐことができるトラブルもありますが、困った時は弁護士への相談も視野に入れてみてはいかがでしょうか。

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