弁護士法人金法律事務所

コラム

期限のある相続手続きと期限を過ぎてしまった場合のリスク

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身近な方が亡くなると、同時にさまざまな手続きが必要になります。
なかには期限が決められている手続きもあり、期限を過ぎてしまうと不利益を被る可能性もあります。
この記事では、相続の手続きを期限内に行えなかったときのリスクについて解説します。

相続の手続き

身近な方が亡くなると、葬儀や供養と並行して、さまざまな手続きを行わなければいけません。
故人の財産を受け継いだり、解約や需給停止手続きを行ったりと、やるべきことは多岐にわたります。
忙しさのあまり後回しにしていると、そのまま手続きし忘れたり、期限に間に合わなくなったりすることもあるため、注意が必要です。

たとえば遺産の分け方を決める協議や、相続人に該当する人の調査には、期限がありません。
しかしこれらの手続きが終わっていないと、その他の期限付きの手続きを進められません。
相続の手続きは計画的に進めていく必要があります。

期限のある手続き

次の手続きには期限が定められています。

  • 相続放棄の判断
  • 相続税の申告と納税
  • 遺留分侵害額請求
  • 相続登記

相続放棄の判断

遺産は相続しないことも可能です。
その判断は相続開始を知ったとき(通常は故人が亡くなった日)から3か月以内に行わなければいけません。
たとえば故人に多くの借金があった場合、相続放棄や限定承認を選択することで、相続人は借金を背負わずに済みます。

相続放棄は、故人の財産をすべて相続しないという選択です。
限定承認は故人に借金などマイナスの財産がある場合、プラスの財産額を上限としてマイナスの財産も相続するものです。
プラスの財産額を超えた分の借金は相続する必要がなく、大きな負債を抱えずに済みます。
相続放棄や限定承認の申し立てを行わずに3か月が経過すると、自動的にすべての財産を相続することになります。

原則として、あとから相続放棄や限定承認を選択することはできません。
ただし、財産の調査に時間がかかるなど期限内に選択できない場合には、家庭裁判所へ熟慮期間延長の申し立てを行うことも可能です。
また、故人が亡くなったことを知らなかったなど正当な理由がある場合は、故人が亡くなってから3か月以上経過していても、相続放棄などを選択できます。

相続税の申告、納税

相続税の申告と納税は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に行わなければいけません。
期限内に申告しなかった場合、無申告加算税が課せられます。
期限内に納税できなかった場合には延滞税が課せられ、納める税金の総額が多くなります。
納期限の翌日から2か月が経過すると延滞税率はさらに高くなり、負担が重くなるため早めの対応が必要です。

未納のまま長期間経過すると、税務署から滞納処分を受けることがあります。
滞納処分では財産を差し押さえられ、現金に換えられたのち、納税にあてられます。
どうしても納税が難しいときには税務署へ相談し、延納や物納といった方法を検討してください。

遺留分侵害額請求

相続人には相続できる財産の最低限の割合が決まっており、これを遺留分と言います。
遺言書によって特定の相続人に相続が集中している場合など、遺留分を侵害されたときには、その相続人に対して遺留分侵害額請求を行うことが可能です。
これにより、最低限の財産を相続できます。

ただし遺留分侵害額請求を行えるのは、相続の開始と遺留分が侵害されている事実の両方を知ってから1年以内です。
故人が亡くなってから10年が経過した場合にも、この権利は行使できなくなります。

相続登記

相続した不動産は、故人の名義から相続人の名義に変更しなければいけません。
相続によって不動産を取得した日から3年以内に登記を行うことが義務付けられています。
正当な理由がなく登記を行わなかった場合、10万円以下の過料が科せられることもあるため、忘れずに行ってください。

遺産の分割方法でもめているなど、期限内に相続登記を行うことが難しい場合には、相続人申告登記を行うことで相続登記の申請義務を果たすことも可能です。
相続人申告登記を行うと、自分が相続人であることを示すことができ、相続登記に関する過料を科せられる心配がなくなります。
ただし相続人申告登記を行うことで相続登記が完了するわけではありません。
遺産分割協議が終了した際には、あらためて相続登記を行う必要があります。

まとめ

この記事では、相続の手続きを期限内に行わなかった場合のリスクについて解説しました。
相続放棄の判断や遺留分の請求は期限を過ぎると認められなくなり、不利益を被る可能性があります。
また相続税の申告や相続登記などを期限内に行わないと、ペナルティを受けることもあります。
相続の際には複数の手続きが同時に発生しますが、忘れずにすべての手続きを行わなければいけません。
相続の手続きに関するトラブルは、弁護士までご相談ください。

債務整理をしても携帯電話は使用できるのか

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債務整理を行ったとき、携帯電話の利用は続けられるのでしょうか。
それは、どのような債務整理を行うか、利用料金などの未納があるかによって変わります。
この記事では、債務整理を行った際の携帯電話の利用について解説します。

債務整理とは

債務整理とは、支払利息を免除してもらったり、借金自体を減らしてもらったりして、毎月の返済にゆとりを持たせる手続きです。
債務整理には次の3種類があります。

  • 任意整理
  • 個人再生
  • 自己破産

任意整理はお金を貸してくれた方と直接交渉する方法です。
返済を軽くしたい借金を選んで個別に交渉できますが、大幅な減額は見込めません。
個人再生と自己破産は、裁判所に認めてもらうことで借金の額を大幅に減額したり、返済を免除してもらったりする方法です。
すべての借金に対して一律で手続きするため、特定の借金を選んで除外することはできません。

債務整理を行うと信用情報機関に登録される

債務整理を行うと、その情報は信用情報機関に登録されます。
信用情報機関に登録された情報は、新たな借り入れをする際などに、金融機関によって確認されます。
債務整理の情報が登録されていると、基本的に、新たな借り入れはできません。
借り入れだけでなく、クレジットカードの利用やローン契約も不可能です。
そのため、商品を分割払いで購入することが難しくなります。
なお、債務整理の情報が登録されている期間は5年から10年ほどです。

債務整理を行っても携帯電話は利用できるのか

携帯電話使用料の未納や分割払いの残りがない場合、債務整理を行ったあとも継続して携帯電話を利用できます。
しかし未納や分割払いの残りがある状態で債務整理を行うと、携帯電話会社との契約が強制解約となり、利用を継続できません。

未納や分割払いの残りがある場合

利用料金の未納や、分割払いの残りの支払いは、個人再生や自己破産手続きの対象となります。
個人再生や自己破産を行うと、未納分の料金などの支払いが大幅に免除されることになり、携帯電話会社は損をします。
そのため、ほとんどの携帯電話会社は、破産手続き開始の通知が届いた時点で利用停止の措置を取ることが一般的です。
債務整理によって返済の負担は減りますが、その後、携帯電話の継続利用はできません。

一方、任意整理は、債務整理する対象を自ら選べます。
債務整理の対象から携帯電話会社を除外することで、未納分や分割払いの残りの支払いを今後も続けられるため、その後も継続利用が可能です。
ただし任意整理では借金を大きく減らせません。
未納が続くようであれば、結局は強制的に解約されてしまう恐れがあるため、弁護士に相談のうえ、状況にあった債務整理を行ってください。

新規契約や機種変更

債務整理を行っても、原則として新規契約や機種変更は可能です。
ただし自己破産などによって強制解約となった場合、一時的に新規契約が難しくなることもあります。
自己破産手続き中は、債務整理手続きの対象となっている携帯電話会社と新たに契約を結べません。
さらに、料金の不払い情報はほかの携帯電話会社にも共有されるため、ほかの会社で新規契約することも難しくなります。
不払い情報の共有は、自己破産によって支払いの免除が確定するまで続きます。

また債務整理を行うと、新規契約時に預託金の支払いを求められることがあります。
預託金とは保証のために支払う金銭であり、万が一利用料金の支払いが滞った場合には、預託金から滞納分の料金が支払われます。
預託金の額は1回線あたり数万円~10万円程度が一般的です。

分割払いは難しくなる

債務整理を行うと、信用情報機関に債務整理の情報が登録され、分割での支払いが難しくなります。
通常、スマートフォンなどの端末代金は毎月分割して支払います。
しかし債務整理後、信用情報が回復するまでは、端末代金を一括で支払わなければいけません。
近年は高額な機種も多いため、購入できる機種が制限される恐れがあります。

携帯電話は自己破産時の差し押さえの対象になるのか

自己破産すると、必要最低限以外の財産は差し押さえられ、現金に換えられて借金の返済に充てられます。
しかし携帯電話やスマートフォンは生活必需品と認められ、差し押さえの対象にはなりません。
ただし一人で複数台所有している場合や、端末代金が20万円以上の場合には、差し押さえの対象になることもあります。

まとめ

この記事では、債務整理をしたときの携帯電話の利用について解説しました。
利用料金の未納や、分割払いの残りがなければ、債務整理を行っても継続して利用できます。
しかし未払いの代金がある場合、債務整理してしまうと、強制的に解約される恐れがあります。
債務整理後も新規契約や機種変更は可能ですが、場合によっては審査に通らないこともあります。
影響を最小限に抑えるためにも、債務整理を行う際には弁護士までご相談ください。

電動キックボードで交通事故にあってしまったときの対応

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電動キックボードは近年新しく普及してきた乗り物です。
小型で簡単に乗れるため便利な反面、事故が起こった際の対応が難しい面もあります。
この記事では、電動キックボードで交通事故にあった際の対応について解説します。

電動キックボードとは

電動キックボードはモーターの付いたキックボードです。
道路交通法では自転車やバイク、自動車と同じく、車両に該当します。
電動キックボードはその規格に応じて、次の3つに分けられます。

  • 一般原動機付自転車
  • 特定小型原動機付自転車
  • 特例特定小型原動機付自転車

一般原動機付自転車に該当する電動キックボードを運転する際には、原付免許が必要です。
特定小型・特例特定小型に該当する電動キックボードは、16歳以上であれば免許不要で運転できます。
ただし免許が不要であっても、交通ルールは守らなければいけません。

規格ごとの主な交通ルール

電動キックボードは、自賠責保険の加入やナンバープレートの装着が義務付けられています。
そのほか、一般原動機付自転車に該当する電動キックボードは車道のみ走行可能ですが、特定小型原動機付自転車は自転車道の走行も可能です。
さらに特例特定小型原動機付自転車に該当する場合は、一定の条件を満たした場合、一部の歩道も走行できます。
運転する車両の規格を把握し、規格に応じた交通ルールを守ってください。

電動キックボードによる交通事故

電動キックボードは車両の中でもバランスを崩しやすく、転倒しやすい特徴があります。
自損事故だけでなく、被害者にも加害者にもなる可能性があります。
車道走行時には自動車に接触する可能性もあり、大きな事故を起こしかねません。

電動キックボード使用時に交通事故にあった場合も、その他の交通事故と同様の対応が必要です。
まずは警察へ連絡したり、けが人を搬送したりといった基本的な対応をしてください。
保険に加入している場合には保険会社へ連絡し、その後の対応を相談します。
また電動キックボードのレンタルサービスを利用していた場合には、レンタル事業者への連絡も必要です。

自損事故や被害者になった場合

操作を誤って自損事故を起こすことや、交通事故の被害者になることがあります。
事故を起こした時には、たとえ自覚症状がなかったとしても、病院で診察を受けておくことが大切です。
むち打ち症などの場合、あとから痛みが出てくることもあります。

事故の被害者になると、事故の相手に治療費や慰謝料などを請求できます。
自損事故の場合も、加入している保険によっては、治療費などが支払われる可能性があります。
治療費の請求の際には医師の診断書が必要です。

誰かに怪我をさせた・物を壊してしまった場合

誰かにけがを負わせたり、何かを壊したりしてしまった際には、相手の損害に対して自分の過失に応じた分の賠償金を支払わなければいけません。
電動キックボードを利用する際には自賠責保険の加入が義務付けられていますが、自賠責保険で支払われるのは相手の怪我に対する補償のみです。
壊してしまった物の賠償は補償されません。

自賠責保険でまかないきれない賠償金は、任意保険でまかなえます。
任意保険に加入していない場合には自分で賠償金を支払うことになるため、自動車やバイクと同様、任意保険へ加入しておくと安心です。

過失割合でもめる可能性がある

支払う賠償金の額は、過失割合によっても変動します。
過失割合とは、どちらの行動にどれだけ悪い部分があったのかを示す割合です。
一般的な自動車事故では、事故の状況に応じて基本的な過失割合が決まっています。
過去の似たような事故の裁判例と照らし合わせ、道路交通法違反の有無などを考慮しながら、適切な過失割合を導き出します。

しかし電動キックボードによる事故の場合、過去の電動キックボードによる事故の事例が少なく、判断基準が明確ではありません。
電動キックボードは原動機付自転車に該当しますが、一部の車両は免許不要で運転できたり、走行場所が自転車と同様だったりします。
単純にバイク事故の事例を参考にすれば良いというものではなく、慎重に判断しなければいけません。

基本的な過失割合が明確ではないぶん、事故の相手方は自身が有利になるような主張をする可能性が高くなります。
参考にできる裁判例も少ないことから、交渉が難航する可能性も高くなります。
そのため、弁護士に交渉を依頼することが有益です。

まとめ

この記事では電動キックボード利用中に交通事故を起こした際の対応について解説しました。
電動キックボードは原動機付自転車に該当しますが、一定の条件を満たせば、運転免許がなくても運転できます。
交通事故後の対応は一般的な交通事故と変わりません。
しかし過失割合を決める際には、前例が少ないため、交渉が難航する恐れがあります。
電動キックボード利用時に交通事故を起こしてしまった場合には、弁護士へご相談ください。

残業代を請求されたときの対応について

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事業を行っていると、従業員から未払いの残業代を請求されることがあります。
支払わなければいけない残業代を支払っていなかった場合だけでなく、従業員の認識や計算が会社と異なっていた場合にも、このようなことは起こります。
この記事では、従業員に残業代を請求されたときの対応について解説します。

残業代とは

残業代とは、決められた労働時間を超えて行った労働に対する賃金です。
法内残業に対する賃金や、以下の労働に対する割増賃金を合わせて支払います。

  • 時間外労働
  • 休日労働
  • 深夜労働

割増賃金は、それぞれの割増率を用いて計算します。
1か月間に時間外労働を行った総時間数や、労働した時間帯によって割増率は変わるため、正確な残業の記録や正しい計算知識がなければ計算を間違えてしまうこともあります。

残業代の未払いがある場合

支払わなければいけない残業代を未払いにしていた場合、遅延した期間の遅延損害金を上乗せして支払わなければいけません。
さらに、訴訟によって支払いが決定した場合には、未払い額と同額の付加金も合わせて支払わなければいけないことがあります。
従業員から残業代の請求を受けたときには、その請求が正しいかどうかを精査し、誠実に対応しなければいけません。

残業代を請求されたときの対応

従業員から残業代を請求されたとき、それを無視してはいけません。
正しく事務処理を行ったつもりでも、時間外労働の把握や計算に誤りがあり、未払いが発生していることもあります。
また、たとえ従業員の認識が間違っている場合でも、対応せずにいると大きなトラブルへ発展する恐れがあります。

請求内容を精査する

まずは従業員の請求内容を精査し、従業員の請求が正しいか確認する必要があります。
たとえば次のような理由により、従業員の請求に誤りがあることもあります。

  • 残業時間の認識に誤りがある
  • 計算が間違っている
  • 固定残業代を支給している
  • 時効が成立している

残業時間の確認は、タイムカードなどの記録によって行います。
残業に関する報告書などがある場合には、それらをもとに確認してください。
このとき、労働時間の切り捨てや切り上げを間違えていないか注意が必要です。
1か月の時間外労働の合計時間に1時間未満の端数がある場合、30分未満の端数は切り捨て、30分以上の端数は1時間に切り上げることが認められています。
ただしこれは1か月単位の計算でのみ認められるものであり、日単位・週単位では認められません。

営業職や外回りを中心とする従業員は正確な労働時間を把握することが難しく、固定の残業代を支給することもあります。
固定残業代とは、あらかじめ一定時間の残業が行われることを想定し、一定の残業代を支払うものです。
実際の残業時間が決められた残業時間内に収まっていれば、追加で残業代を支払う必要はありません。
ただし、深夜労働や休日労働に対する割増賃金は発生します。
決められた労働時間を超えた分の残業代や、深夜・休日労働に対する割増賃金が未払いになっていないか、注意する必要があります。

また、残業代請求に関する時効が成立している場合も、その分の支払いは必要ありません。
残業代の時効は3年で成立しますが、成立前に残業代の請求や裁判などを行うと、時効完成までの期間が延長されます。

和解もしくは反論する

従業員の請求を精査し、会社側に誤りがあった場合には、和解によって解決を目指します。
未払いの残業代や遅延損害金を支払い、和解についての合意書を作成しておくと、その後のトラブルを防止できます。
従業員の請求を精査した結果、会社側の計算などに誤りがない場合には、従業員の請求に対し反論していくことになります。
労働時間に関する認識の間違いがある場合には、タイムカードなどの客観的な証拠をもとに、会社側の認識が正しいことを証明してください。
残業代の計算は法律の知識がないと間違ってしまうこともあるため、従業員への反論は弁護士に依頼すると安心です。

双方の主張が対立している場合、裁判に発展する恐れもあります。
裁判には時間も労力もかかるため、裁判に発展しないよう交渉した方が良い場合もあります。
裁判の際、労働時間の認識や残業代の計算が正しいか判断するのは裁判所です。
第三者が見ても会社側の主張が正しいと判断できる客観的な証拠を用意してください。

まとめ

この記事では、従業員に残業代を請求されたときの対応について解説しました。
残業時間の認識や計算ルールの認識を間違えていると、残業代を正しく計算できません。
従業員から残業代を請求されたときには、従業員の主張が正しいか、会社側にミスがないか、精査する必要があります。
会社側のミスが発覚した場合には、誠実かつ速やかに対応します。
しかし従業員側の主張を受け入れられないときには、反論していかなければいけません。
労働に関する問題の交渉は、弁護士までご相談ください。

慰謝料的財産分与とは別に、慰謝料を請求できるケースとは?

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離婚する際、婚姻期間中に築き上げた財産を分配する仕組みが、財産分与です。
財産分与に慰謝料的な意味合いを持たせて支払われたとき、それとは別に慰謝料を請求することは可能なのでしょうか。
この記事では、慰謝料的財産分与と慰謝料を両方とも請求できるケースについて解説します。

慰謝料と慰謝料的財産分与

離婚の原因が相手にある場合、離婚によって受けた精神的苦痛に対し、慰謝料を請求できます。
慰謝料や慰謝料的財産分与の額は、当事者同士の話し合いで決められます。
話し合いで慰謝料の必要性や金額などが合意できなかった場合には、裁判により金額などを判断してもらうこともあります。
婚姻期間が長かった場合や、相手の行為が悪質であるなど苦痛が大きいと判断される場合には、慰謝料の額も高額になることが一般的です。

慰謝料

離婚による慰謝料には、離婚すること自体に対する慰謝料と、離婚に至った原因となる行為に対する慰謝料が含まれます。
慰謝料の対象となる行為には、次のようなものがあります。

  • 配偶者以外と肉体関係を持った
  • 暴言や暴力があった
  • 夫婦間で互いに協力し、助け合うことをしなかった
  • 夫婦関係を継続できない重大な原因があった

このような原因に対して慰謝料を請求する際には、とくに裁判などで争う場合、その行為があったことを示す客観的な証拠が必要です。

慰謝料的財産分与

財産分与に慰謝料的な意味合いを持たせたものが、慰謝料的財産分与です。
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が互いの協力のもと築き上げた財産を公平に分配することです。
通常は夫婦で2分の1ずつ分け合います。
たとえ夫婦のどちらかが専業主婦(夫)であっても同様に分配します。
専業主婦は家事に従事することで相手の生活を支え、財産の形成に協力したと言えるためです。

しかし財産分与は、必ずしも2分の1ずつ分けるものではありません。
個々の事情に合わせ、割合を変更することも可能です。
たとえば離婚に至った原因が夫婦の片方にある場合、その事情を考慮したうえで割合を決定してもかまいません。
離婚の原因を作った側の割合を少なくし、相手側が多く受け取ることで、相手の精神的苦痛の補填とします。
これが、慰謝料的財産分与です。

慰謝料と慰謝料的財産分与を両方得られるケース

慰謝料と慰謝料的財産分与は別の仕組みです。
しかし離婚というひとつの苦痛に対し、慰謝料を重ねて受け取ることはできません。
ただし慰謝料的財産分与の額が、本来受け取れるはずの慰謝料額に満たない場合、その不足分を別途請求することが可能です。

慰謝料的財産分与で賠償しきれない場合

たとえば離婚による慰謝料として300万円の請求が適正である場合で考えてみましょう。
本来、財産分与は2分の1ずつ分け合いますが、その金額に300万円を上乗せして支払われた場合、それとは別に慰謝料を請求しても認められません。
しかし上乗せされた金額が100万円であった場合、不足分200万円の請求を認められる可能性があります。

ただし裁判によってこれを認めてもらうには、財産分与に上乗せされた金額だけでは賠償しきれないことを証明しなければいけません。
たとえば離婚に至った原因として、相手の不貞行為や暴力などがあった場合には、それらを示す証拠が必要です。

慰謝料は不倫相手に請求することも可能

配偶者へ別途慰謝料を請求しようとしても、配偶者の経済状況によっては、支払う能力が足りないこともあります。
離婚の原因が相手の不貞行為であり、一定の条件を満たしている場合、不倫相手に慰謝料を請求することも可能です。

ただし不倫相手に慰謝料を請求できるのは、不倫相手が「相手が既婚者であるとわかっていながら肉体関係を持ったとき」のみです。
配偶者が不倫相手に既婚者であることを伝えていた場合や、既婚者であることが明らかな状況で不貞行為に及んだ場合でなければ請求できません。
そのため、配偶者がマッチングアプリなどを利用し、既婚者であることを隠して不貞行為に及んでいた場合には、不倫相手に請求できない可能性があります。

また、不倫相手に請求できる金額は、慰謝料の不足分です。
適正な慰謝料額が300万円であり、配偶者から慰謝料的財産分与として100万円、慰謝料として50万円を受け取る場合、不倫相手に請求できるのは残りの150万円となります。

まとめ

この記事では、慰謝料的財産分与とは別に慰謝料を請求できるケースについて解説しました。
慰謝料と財産分与は本来別の仕組みですが、ふたつを合わせて慰謝料的財産分与とすることも可能です。
ただし、受け取った慰謝料的財産分与の額では精神的苦痛を賠償しきれないと判断されるときには、別途不足分の慰謝料を請求できます。
慰謝料の判断には、離婚に至った原因や財産分与として受け取った金額など、さまざまな要因が関係します。
離婚の際は弁護士までご相談ください。

弁護士に相続人の調査を依頼するメリット

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相続が発生したとき、すべての相続人を把握しなければ手続きを進められません。
相続人の調査は自ら行うこともできますが、専門家へ依頼することも可能です。
この記事では、相続人の調査を弁護士へ依頼するメリットについて解説します。

相続人の調査とは

相続税の計算や、相続した不動産の名義変更をする際には、相続人を把握しておく必要があります。
相続人の人数によって相続税の基礎控除額が変わったり、相続登記の際に相続人全員の書類が必要になったりするためです。

相続人に該当する人

故人の財産を相続できる人は法律によって決められています。
遺言書がない限り、故人の配偶者と子どもが法定相続人です。
故人に子どもがいない場合は、故人の両親や祖父母が故人の配偶者とともに相続人になります。
両親などもいない場合には、故人の兄弟姉妹が相続人になります。

相続人の調査方法

相続人の調査は、故人の出生時から亡くなったときまでの戸籍謄本を途切れることなく調べる方法で行います。
これにより、故人に生き別れた子どもや認知した子ども、養子などがいないか確認できます。
戸籍は引っ越しや結婚などによって新しく作られることがあるため、故人の生活スタイルによっては調べる戸籍謄本の数が非常に多くなります。

相続人調査を弁護士に依頼するメリット

相続人の調査を弁護士へ依頼することで、手間をかけず、正確に調査できます。
手続きが進んだあとに新たな相続人が現れると、手続きを最初からやり直さなければいけなくなります。
見落としがないよう、調査は慎重に行わなければいけません。

もれなく正確に調査できる

弁護士に依頼することで、相続人の見落としを防げます。
調査に慣れていないと、戸籍に記載された養子縁組や認知の表記を見落としてしまうことがあります。
戸籍に記載される内容の一部は、戸籍を新しくした際に記載されなくなります。
一度見落としてしまうとその後も見落としたままになってしまうため、専門家へ依頼すると安心です。

とくにデジタル化される前の戸籍は、現在の戸籍と形式が違ったり、手書きで作成されたりと、読み解くことが簡単ではありません。
さらに市町村合併により、古い戸籍の所在地がなくなっている可能性もあります。
弁護士であればそのような戸籍も探し出し、正しく読み解くことが可能です。

手間のかかる手続きを代行してもらえる

弁護士が手続きを代行することで、相続人の方々は時間を有効活用できます。
身近な方が亡くなると、相続だけでなくさまざまな対応が必要になります。
第三者に任せられる手続きを第三者へ任せることで、相続人の負担を軽減できます。
故人や相続人の戸籍謄本は誰でも取得できるわけではありませんが、弁護士であれば職務に必要な範囲内で取得できます。

相続人をすべて調査したあとは、法定相続情報一覧図を作成しておくと、相続に関するさまざまな手続きに役立ちます。
法定相続情報一覧図の作成も弁護士へ依頼することが可能です。
相続人自ら作成することも可能ですが、相続人の数が多いと手間がかかります。
記載内容に不足があると相続の手続きに利用できないこともあるため、弁護士に依頼すると安心です。

トラブルに発展したとき、スムーズに対応を依頼できる

財産が多い場合や、不動産など分けることが難しい財産がある場合、相続の手続きを進める過程でトラブルが発生することもあります。
トラブルを個人間で解決することは難しく、弁護士に解決を依頼した方が良いケースも少なくありません。
相続手続きの初期段階から弁護士に依頼しておくことで、トラブルが発生した際にすぐに対応できます。

たとえば遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の分け方を決定します。
このとき不動産のような分割しにくい財産があると、協議が難航することもあります。
遺産の適正な分け方を判断することは難しく、分け方に納得できない相続人が現れると、協議はまとまりません。
協議をまとめるためには交渉が必要ですが、直接交渉すると、その後の親族関係に影響を与えてしまうこともあります。
このようなときに弁護士に対応を依頼することで、弁護士を代理人として法的な根拠をもとに交渉可能です。
トラブルが深刻化してからではなく、早めに依頼すると、こじれる前に対応できます。

まとめ

この記事では、相続人の調査を弁護士に依頼するメリットについて解説しました。
相続人の調査は自分で行うことも可能ですが、手間がかかったり、見落としが発生したりすることもあります。
しかし弁護士に依頼することで、限られた時間の中で正確に調査することが可能です。
とくに故人に離婚歴があったり、引っ越しが多かったりする場合には、弁護士に依頼すると安心です。
弁護士には相続人の調査だけでなく、相続にまつわるさまざまなトラブルの相談も可能です。
相続の問題は弁護士までご相談ください。

官報に載るとどうなる?掲載内容とその影響

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個人再生や自己破産を行うと、その情報が官報に掲載されます。
官報は誰でも見ることができ、破産に関する情報は掲載拒否もできません。
この記事では、官報に掲載される内容や、その影響について解説します。

官報とは

官報とは、国の法令や公示事項を掲載し、周知するための国の広報誌です。
行政機関の休日を除いた毎日午前8時30分に、官報発行サイトへ掲載されることによって発行されます。
書面での交付を希望する場合には、各都道府県の官報サービスセンターなどへ申し込むことも可能です。
通常発行される本紙のほか、国会会議録や政府調達公告が掲載された号外が発行されることもあります。
発行から90日間は全体を無料で閲覧・ダウンロードできますが、それ以降は一部の記事が公開終了となります。

官報への掲載

官報には政府や各府省庁などが公布する文書や、国などからの告知が掲載されます。
そのほか、会社や裁判所などが重要事項を広く通知する際にも利用されます。
たとえば自己破産や個人再生を行った際には、破産手続きが開始されることを官報によって広く告知します。
これは個人が破産した事実を見せしめのように示すためではなく、その人へお金を貸した債権者がもれなく手続きに参加できるようにするためです。
このように、個人を特定できる内容が掲載されることもあります。

官報に掲載される個人情報とその影響

たとえば人事異動や褒章授与などに際して、名前が掲載されることがあります。
そのほか、破産手続きや処分などネガティブな内容に関しても、個人情報を掲載されることがあります。

破産手続きにより掲載される内容

たとえば自己破産の手続き開始によって官報に掲載される内容は次の通りです。

  • 事件番号
  • 住所
  • 氏名
  • 手続き開始が決まった日時
  • 手続き開始の理由
  • 免責意見申述期間
  • 手続きを行う裁判所の名前

破産を知られたくないからといって掲載を拒否することはできません。
ただし掲載内容に誤りがある場合には訂正可能です。
破産手続きを行うと、破産手続き開始時や破産が認められたときなど、個人情報が複数回掲載されます。

官報に掲載される影響

官報は発行後90日間であれば誰でも無料で閲覧可能です。
しかし官報に個人情報が掲載されたからといって、大きな影響はないと考えられます。

まず、知人や会社に対する影響についてです。
一部の職業の方以外、官報を毎日くまなく確認することは、ほぼありません。
自分の知り合いや家族が官報を毎日閲覧している可能性は低く、掲載されたことにも気付かれないことがほとんどです。
金融機関や信用情報機関などの職員は、官報を確認することもあります。
しかし毎日多くの情報が掲載されている官報から、偶然知り合いの情報を見つける可能性は低いと言えます。
このように、官報に個人情報が掲載されたとしても、知人や会社に対する影響は少ないと考えられます。

しかし破産の事実が公になることで、悪質な業者に目をつけられてしまうリスクがあります。
たとえば自己破産すると、クレジットカードが利用できなくなったり、新たな借り入れが難しくなったりします。
破産手続きが開始されたばかりの方は金銭的に困っていても、どうにかすることが簡単ではありません。
そのような方々を狙い、法外な利息で現金を貸し付ける悪質な業者も存在します。
官報に掲載された情報がデータベース化され、それをもとに悪質な勧誘を受けることがあるため、注意が必要です。

個人情報の保護が強化された影響

官報は2025年4月より電子化され、同時に個人情報の保護も強化されました。
掲載される情報のうち、裁判所公告などプライバシーに配慮が必要な情報は、記事を画像化することで、テキスト抽出やテキスト検索が困難になっています。
公開期間も90日に限定され、それ以降は当該記事の閲覧やダウンロードもできません。

プライバシーへの配慮が必要な記事は、官報情報検索サービスによって記事検索することもできなくなりました。
そのため破産情報などを探す際には、ひと記事ずつ目視で調べることになります。
これにより、今まで以上に破産などの情報を他人に知られる可能性が低くなりました。
破産などの情報が悪質な業者に利用される可能性が少なくなる半面、金融機関などの与信調査に影響を与える可能性もあります。

まとめ

この記事では、官報に掲載される内容とその影響について解説しました。
官報には法律や政令など国や各省庁が広く国民に伝えたい内容や、企業や裁判所などが知らせたい内容が掲載されます。
個人の破産に関しては、氏名や住所といった個人情報も掲載されます。
無料で誰でも閲覧できるため、破産の情報が他人に知られてしまうリスクがあります。
しかし官報を日頃から確認している人は多くなく、その影響は限定的です。
債務整理などによって掲載されることに不安がある方は、弁護士までご相談ください。

交通事故により受け取れるお金の種類

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交通事故の被害にあったとき、加害者側から金銭を受け取ることが可能です。
被害の状況に応じて、治療費や慰謝料など、さまざまなお金を受け取れます。
この記事では、交通事故の被害にあったときに受け取れるお金について解説します。

交通事故によって発生した損害の賠償

交通事故によって受けた損害を補填するため、加害者側から金銭を受け取れます。
たとえば治療のためにかかった費用は、その実費を受け取ることが可能です。
事故にあったことによる精神的苦痛など、金銭的な損害以外に対しても、金銭での補填を受けられます。

受け取れる金額に差が出ることもある

治療費や修理代は実費で支払われますが、精神的苦痛に対する慰謝料は、金額の判断が簡単ではありません。
慰謝料の額は、どの算定基準を用いるかによっても変わります。
たとえば保険会社が独自に設定している算定基準では、弁護士が採用している算定基準よりも低くなることが一般的です。
弁護士へ依頼して相手方と交渉することで、法的に適正な額の慰謝料を受け取れる可能性が高くなります。

受け取れるお金の種類

交通事故によって受け取れる金銭には次のようなものがあります。

  • 物損や人身傷害に対する実費の補填
  • 精神的苦痛に対する慰謝料
  • 後遺障害や逸失利益に対する補填

物損や人身傷害に対する実費の補填

事故によって破損した自動車などの修理費や、怪我をした際の治療費は、かかった費用の実費が補填されます。
ただし、医学的な必要性や合理性のない治療費などは補填されません。
医師の指示がない状態で利用した整体やマッサージの費用は、治療費として認められない可能性があるため注意してください。

治療費そのものだけでなく、治療のために必要となった費用も補填されます。
車いすなどの器具や装具が必要となった場合には、その購入費やレンタル費用が支払われます。
通院にかかる交通費も補填の対象です。
電車やバスの運賃は、常識の範囲内で支払いが認められます。

ただしタクシーを利用した場合は注意が必要です。
タクシーの費用は電車などに比べて高額であり、タクシーを利用しなければいけなかった合理的な理由がない場合には、認められない可能性があります。
自家用車を利用した際には、ガソリン代や駐車料金などが補填の対象となります。

入院が必要となった場合、実際の入院費のほか、入院に必要な日用品などの購入費用も損害として認められる可能性があります。
入院や通院時、怪我の程度や被害者の年齢などによって付き添いや介助が必要となった場合には、付き添い介護費が支払われることもあります。

精神的苦痛に対する慰謝料

交通事故によって負った精神的苦痛に対する慰謝料も受け取れます。
怪我によって通院や入院が必要となった場合、入通院に対する慰謝料を受け取れます。
通院が必要になってから、完治または症状が固定するまでの期間に対して支払われます。
症状の固定とは、治る見込みがない状態のことです。

症状が固定し、後遺障害と認められた場合、後遺障害に対する慰謝料も受け取れます。
後遺障害に対する慰謝料の額は、後遺障害認定の等級によっても変わります。
重い障害が残るほど慰謝料も高額になります。

万が一事故によって被害者が亡くなった場合、亡くなった本人の苦痛に対して死亡慰謝料が支払われます。
死亡慰謝料の受取人は相続人です。
また、被害にあった方の近親者の精神的苦痛に対して、近親者慰謝料が支払われることもあります。

後遺障害や逸失利益に対する補填

逸失利益とは、事故にあわなければ受け取れたであろう将来的な利益のことです。
事故で亡くなったり、後遺障害が残ったりすると、健康なときのように働けなくなります。
その補填として、事故前の収入をベースに、失われた労働能力から逸失利益を計算します。
専業主婦(主夫)や学生など収入がなかった方も、平均賃金をもとに逸失利益が支払われます。

事故によって仕事を休まなければならなくなったときには、休業損害に対する賠償を受け取れます。
専業主婦であっても家事という労働に従事していると考えられるため、休業損害賠償の対象です。

後遺障害が残った場合、将来発生する介護費についても補填されます。
要介護認定を受けた際には原則として将来介護費が認められ、要介護認定を受けなかった場合でも介護の必要性が認められる際には支払われます。
自宅のバリアフリー化や、介護用ベッドや介護用自動車の購入費も補填されます。

まとめ

この記事では、交通事故の被害にあった際に受け取れるお金について解説しました。
怪我の治療にかかる実費のほか、被害にあったことによる精神的苦痛に対する慰謝料も受け取れます。
怪我によって働けなくなった場合には、休業損害や将来的に得られるはずだった利益も補填されます。
ただし、法的に妥当な金額を受け取るには、弁護士による交渉が欠かせません。
交通事故の被害にあわれた場合には、弁護士までご相談ください。

電子化できない契約書とは|電子保存についても解説

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近年、書面による契約ではなく、電子契約書を用いた契約が普及しています。
便利かつ安全に契約を締結できるようになりましたが、まだ一部の契約においては電子化できないものも存在します。
この記事では、電子化できない契約と、書類の電子保存について解説します。

電子契約とは

電子契約とは、電子化された取引の中で締結する契約です。
紙の契約書や物理的な署名・捺印を必要とせず、電子的な契約書に電子署名を施すことによって契約します。
インターネットを介して契約できるため、書面の郵送や対面でのやり取りが必要なく、遠方にいる相手とも即時の取引が可能です。

電子契約書の証拠力

次の条件を満たした電子署名を施すことで、その電子契約書は裁判においても十分な証拠力を持ちます。

  • 本人による署名であると確認できる
  • 署名後、その文書に変更がないことを確認できる

本人確認は、電子証明書の発行や、電子契約サービスを利用する方法で行えます。
本人確認の方法によって、印鑑でいうところの三文判程度の効力から、実印相当の効力を持った契約まで可能です。

電子化できない契約

2025年現在、ほとんどの契約が電子化できます。
ただし、一部の契約は電子化できません。

公正証書による契約

公正証書によって締結するように決められている契約は、電子化できません。
公正証書の作成は、対面かつ書面での作成が義務付けられているためです。
公正証書によって締結しなければいけない契約は次の通りです。

  • 事業用定期借地権
  • 企業担保権の設定や変更の契約
  • 任意後見契約

ただし現在、公正証書のデジタル化に向けて、法整備やその他の準備が進められています。
令和7年度内のデジタル化施行を目指しており、施行後は公正証書の電子的な作成や保存が原則となる見込みです。

取引相手の同意や承諾が必要になる契約

一部の契約において、電子契約実施の同意や承諾を得なければいけないものがあります。
たとえば建設工事に関わる請負契約書や、宅建業者の媒介契約書などを電子契約書にするためには、事前に契約相手の承諾が必要です。
承諾を得られなかった場合には、従来通り書面で契約書を発行しなければいけません。
また訪問販売などの契約も、事前に消費者から承諾を得なければ電子契約書の交付はできません。
取引相手が電子的な取引に不慣れであっても問題なく契約できるよう、相手の状況に合わせて契約書を作成してください。

電子保存の決まり

国税関係帳簿書類に該当する電子契約書は、電子帳簿保存法の対象です。
会計の帳簿だけでなく、注文書や雇用契約書など、取引に関わる契約書も電子帳簿保存法に則って保存しなければいけません。
電子取引によって得た書類は電子データのまま保存する必要があり、紙に印刷して保存することはできません。
ただし、FAXによる受信などで電子データが残っていない場合には、電子保存の対象外です。
受信した書類をそのまま保存するか、スキャナ等で取り込み画像データとして保存してください。

電子保存の要件

電子的な取引をした場合、そのデータは次の要件を満たしたうえで電子保存する必要があります。

  • 真実性が確保されている
  • パソコンやシステムのマニュアルが完備されている
  • 必要なときに速やかに取引データを表示または印刷できる
  • 必要事項に応じたデータの検索ができる

真実性の確保とは、電子データに偽りがないことを証明するものです。
たとえば取引相手からタイムスタンプが付与されたデータが送られてきた場合、そのデータは真実性が確保されていると言えます。
そのほか、取引後すみやかに自社でタイムスタンプを付与したり、データの訂正や削除に関する社内規定を作ったりすることで、真実性を確保できます。
さらに、データの訂正や削除の履歴が残るシステムを用いてデータの保存を行う場合にも、真実性の確保がされていると認められます。

紙で作成された書類も電子保存できる

紙で作成された契約書や請求書などの国税関係書類も、電子的に保存することが可能です。
書類をスキャナで取り込んだり、写真撮影したりして、画像データとして保存します。
スキャナ保存せず、紙のまま保存することも可能です。
ただし仕訳帳や総勘定元帳などの国税関係帳簿類は、電子的に作成されたもののみが電子保存の対象です。
手書きによって作成された帳簿類をスキャナ等で取り込み、電子的に保存することはできません。

まとめ

この記事では電子化できない契約書と、取引したデータの電子保存について解説しました。
ほとんどの契約書は電子化することが可能ですが、取引相手の同意を得られなかったり、公正証書による作成が必要だったりする場合には、電子化できないこともあります。
また、電子化された取引データは、電子帳簿保存法に則って正しく保存しなければいけません。
電子取引や電子帳簿保存法に不安のある方は、弁護士までご相談ください。

扶養的財産分与の相場や期間

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離婚の際、夫婦の共有財産を公平に分配したり、離婚後の生活を保障したりするため、財産を分け合うことが認められています。
その中でも、離婚後の生活を保障するために分け合う仕組みを扶養的財産分与と呼びます。
この記事では扶養的財産分与について解説します。

扶養的財産分与とは

離婚後、生活を続けていくことが困難になる相手に対し、金銭的なサポートをする手段が扶養的財産分与です。
婚姻期間中、夫婦どちらかの経済力に頼って生活を営んでいた場合、離婚すると、経済力のない側は生活を続けられなくなってしまいます。
とくに長い間専業主婦だった方にとって、これから就職することは簡単ではありません。
このようなとき、夫婦の協議によって扶養の必要性や金額、期間などを判断・決定できます。
夫婦だけの協議で話がまとまらない場合には、調停や裁判によって判断してもらうことも可能です。

ただし本来、離婚後の夫婦間にお互いの扶養義務はありません。
裁判などで認められるには、それ相応の理由が必要です。
たとえ就職が難しくても、通常の財産分与によってしばらく生活していけるようであれば、扶養的な部分の財産分与は認められない可能性があります。

扶養の必要性が認められる状況

離婚後に自分の力だけで生活を営んでいくことが難しいと判断されるのは、主に次のような状況です。

  • 現在、専業主婦(夫)である
  • 病気や障害により就職が難しい
  • 高齢により就職が難しい
  • 小さな子どもを養育しておりフルタイムの勤務が難しい

専業主婦歴が長い場合、就職のために資格の取得や職業訓練が必要な場合もあり、すぐに安定した仕事に就くことは困難です。
高齢であったり、病気や障害があったりする場合も、生活していくだけの収入を得ることが難しい場合があります。
このように当面の生活費を稼ぐことが難しいと判断される場合、サポートの必要性を認められる可能性が高くなります。

子どもを養育する場合、相手方から養育費を受け取れますが、養育費は子どものための費用です。
養育のために親が時短勤務を強いられたとしても、それによって生じた親の生活費の不足分までは補填されません。
その補填として、フルタイム勤務が可能になるまでの間、扶養的財産分与が認められることもあります。
とくに子どもに障害がある場合などは認められやすくなります。

支払われる金額の相場

支払われる金額は、当事者双方の当面の経済状況や公的な手当の有無など、個々の状況に応じて決められます。
1か月あたりの支払金額は、婚姻期間中の生活費よりも低く設定されることが多く、経済的な自立に向けた準備ができる最低限の金額になることが一般的です。
支払う側にとっても、大きな負担にならない程度の金額です。

現在専業主婦であったとしても、資格を持っていたり、収入につながるスキルがあったりする場合には、すぐに自立できるものとして、支払われる金額が少なくなることがあります。
一方で、専業主婦の期間が長く資格などもない場合には、就職することが難しかったり資格取得の時間や費用がかかったりすることから、支払われる金額が多くなることもあります。

支払い方法

支払いは離婚時に一括で支払うほか、毎月分割払いする方法もあります。
とくに病気などにより働くこと自体が困難な場合には、一括で大金を受け取るよりも、毎月支援を受ける方法が適している場合があります。
ただし、支払期間が長くなるほど支払いが途絶えてしまうリスクも高くなります。
支払いに関する決定事項は公正証書にしておくと安心です。

支払われる期間

扶養的財産分与は、離婚した相手が経済的に自立できるようになるまで支援するものです。
そのため、経済的な自立が可能になるまでの期間を定めて支払われます。
経済的な自立が可能になるまでの期間は個々の状況によっても異なりますが、1~3年とすることが一般的です。
期間を定めた場合、たとえその期間内に自立できなかったとしても、それ以降の支援は望めません。

高齢や病気・障害を理由に就職のめどが立たない場合、長期間の支払いが認められる可能性もあります。
ただし、年金の受給開始などにより支援が必要なくなった場合には、それ以降の支払いは受けられないことが一般的です。
同様に、分与を受ける側が相続などにより多くの財産を取得した場合や、再婚によって他者の扶養に入った場合にも、支払いは終了します。

まとめ

この記事では、扶養的財産分与について解説しました。
離婚後すぐに自立した生活を送ることが困難な場合には、相手に生活のサポートを求められます。
しかし裁判などで認められるには、相応の理由がなければいけません。
認められた場合でも、離婚後はお互いに相手を扶養する義務がなくなるため、受け取れる金額は最低限です。
当事者同士の話し合いで決まらない場合には、裁判などにより判断する必要があります。
財産分与にお悩みの方は、弁護士までご相談ください。

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