事業を行っていると、従業員から未払いの残業代を請求されることがあります。支払わなければいけない残業代を支払っていなかった場合だけでなく、従業員の認識や計算が会社と異なっていた場合にも、このようなことは起こります。この記事では、従業員に残業代を請求されたときの対応について解説します。
残業代とは
残業代とは、決められた労働時間を超えて行った労働に対する賃金です。法内残業に対する賃金や、以下の労働に対する割増賃金を合わせて支払います。
時間外労働
休日労働
深夜労働
割増賃金は、それぞれの割増率を用いて計算します。1か月間に時間外労働を行った総時間数や、労働した時間帯によって割増率は変わるため、正確な残業の記録や正しい計算知識がなければ計算を間違えてしまうこともあります。
残業代の未払いがある場合
支払わなければいけない残業代を未払いにしていた場合、遅延した期間の遅延損害金を上乗せして支払わなければいけません。さらに、訴訟によって支払いが決定した場合には、未払い額と同額の付加金も合わせて支払わなければいけないことがあります。従業員から残業代の請求を受けたときには、その請求が正しいかどうかを精査し、誠実に対応しなければいけません。
残業代を請求されたときの対応
従業員から残業代を請求されたとき、それを無視してはいけません。正しく事務処理を行ったつもりでも、時間外労働の把握や計算に誤りがあり、未払いが発生していることもあります。また、たとえ従業員の認識が間違っている場合でも、対応せずにいると大きなトラブルへ発展する恐れがあります。
請求内容を精査する
まずは従業員の請求内容を精査し、従業員の請求が正しいか確認する必要があります。たとえば次のような理由により、従業員の請求に誤りがあることもあります。
残業時間の認識に誤りがある
計算が間違っている
固定残業代を支給している
時効が成立している
残業時間の確認は、タイムカードなどの記録によって行います。残業に関する報告書などがある場合には、それらをもとに確認してください。このとき、労働時間の切り捨てや切り上げを間違えていないか注意が必要です。1か月の時間外労働の合計時間に1時間未満の端数がある場合、30分未満の端数は切り捨て、30分以上の端数は1時間に切り上げることが認められています。ただしこれは1か月単位の計算でのみ認められるものであり、日単位・週単位では認められません。
営業職や外回りを中心とする従業員は正確な労働時間を把握することが難しく、固定の残業代を支給することもあります。固定残業代とは、あらかじめ一定時間の残業が行われることを想定し、一定の残業代を支払うものです。実際の残業時間が決められた残業時間内に収まっていれば、追加で残業代を支払う必要はありません。ただし、深夜労働や休日労働に対する割増賃金は発生します。決められた労働時間を超えた分の残業代や、深夜・休日労働に対する割増賃金が未払いになっていないか、注意する必要があります。
また、残業代請求に関する時効が成立している場合も、その分の支払いは必要ありません。残業代の時効は3年で成立しますが、成立前に残業代の請求や裁判などを行うと、時効完成までの期間が延長されます。
和解もしくは反論する
従業員の請求を精査し、会社側に誤りがあった場合には、和解によって解決を目指します。未払いの残業代や遅延損害金を支払い、和解についての合意書を作成しておくと、その後のトラブルを防止できます。従業員の請求を精査した結果、会社側の計算などに誤りがない場合には、従業員の請求に対し反論していくことになります。労働時間に関する認識の間違いがある場合には、タイムカードなどの客観的な証拠をもとに、会社側の認識が正しいことを証明してください。残業代の計算は法律の知識がないと間違ってしまうこともあるため、従業員への反論は弁護士に依頼すると安心です。
双方の主張が対立している場合、裁判に発展する恐れもあります。裁判には時間も労力もかかるため、裁判に発展しないよう交渉した方が良い場合もあります。裁判の際、労働時間の認識や残業代の計算が正しいか判断するのは裁判所です。第三者が見ても会社側の主張が正しいと判断できる客観的な証拠を用意してください。
まとめ
この記事では、従業員に残業代を請求されたときの対応について解説しました。残業時間の認識や計算ルールの認識を間違えていると、残業代を正しく計算できません。従業員から残業代を請求されたときには、従業員の主張が正しいか、会社側にミスがないか、精査する必要があります。会社側のミスが発覚した場合には、誠実かつ速やかに対応します。しかし従業員側の主張を受け入れられないときには、反論していかなければいけません。労働に関する問題の交渉は、弁護士までご相談ください。