近年、書面による契約ではなく、電子契約書を用いた契約が普及しています。
便利かつ安全に契約を締結できるようになりましたが、まだ一部の契約においては電子化できないものも存在します。
この記事では、電子化できない契約と、書類の電子保存について解説します。
電子契約とは
電子契約とは、電子化された取引の中で締結する契約です。
紙の契約書や物理的な署名・捺印を必要とせず、電子的な契約書に電子署名を施すことによって契約します。
インターネットを介して契約できるため、書面の郵送や対面でのやり取りが必要なく、遠方にいる相手とも即時の取引が可能です。
電子契約書の証拠力
次の条件を満たした電子署名を施すことで、その電子契約書は裁判においても十分な証拠力を持ちます。
- 本人による署名であると確認できる
- 署名後、その文書に変更がないことを確認できる
本人確認は、電子証明書の発行や、電子契約サービスを利用する方法で行えます。
本人確認の方法によって、印鑑でいうところの三文判程度の効力から、実印相当の効力を持った契約まで可能です。
電子化できない契約
2025年現在、ほとんどの契約が電子化できます。
ただし、一部の契約は電子化できません。
公正証書による契約
公正証書によって締結するように決められている契約は、電子化できません。
公正証書の作成は、対面かつ書面での作成が義務付けられているためです。
公正証書によって締結しなければいけない契約は次の通りです。
- 事業用定期借地権
- 企業担保権の設定や変更の契約
- 任意後見契約
ただし現在、公正証書のデジタル化に向けて、法整備やその他の準備が進められています。
令和7年度内のデジタル化施行を目指しており、施行後は公正証書の電子的な作成や保存が原則となる見込みです。
取引相手の同意や承諾が必要になる契約
一部の契約において、電子契約実施の同意や承諾を得なければいけないものがあります。
たとえば建設工事に関わる請負契約書や、宅建業者の媒介契約書などを電子契約書にするためには、事前に契約相手の承諾が必要です。
承諾を得られなかった場合には、従来通り書面で契約書を発行しなければいけません。
また訪問販売などの契約も、事前に消費者から承諾を得なければ電子契約書の交付はできません。
取引相手が電子的な取引に不慣れであっても問題なく契約できるよう、相手の状況に合わせて契約書を作成してください。
電子保存の決まり
国税関係帳簿書類に該当する電子契約書は、電子帳簿保存法の対象です。
会計の帳簿だけでなく、注文書や雇用契約書など、取引に関わる契約書も電子帳簿保存法に則って保存しなければいけません。
電子取引によって得た書類は電子データのまま保存する必要があり、紙に印刷して保存することはできません。
ただし、FAXによる受信などで電子データが残っていない場合には、電子保存の対象外です。
受信した書類をそのまま保存するか、スキャナ等で取り込み画像データとして保存してください。
電子保存の要件
電子的な取引をした場合、そのデータは次の要件を満たしたうえで電子保存する必要があります。
- 真実性が確保されている
- パソコンやシステムのマニュアルが完備されている
- 必要なときに速やかに取引データを表示または印刷できる
- 必要事項に応じたデータの検索ができる
真実性の確保とは、電子データに偽りがないことを証明するものです。
たとえば取引相手からタイムスタンプが付与されたデータが送られてきた場合、そのデータは真実性が確保されていると言えます。
そのほか、取引後すみやかに自社でタイムスタンプを付与したり、データの訂正や削除に関する社内規定を作ったりすることで、真実性を確保できます。
さらに、データの訂正や削除の履歴が残るシステムを用いてデータの保存を行う場合にも、真実性の確保がされていると認められます。
紙で作成された書類も電子保存できる
紙で作成された契約書や請求書などの国税関係書類も、電子的に保存することが可能です。
書類をスキャナで取り込んだり、写真撮影したりして、画像データとして保存します。
スキャナ保存せず、紙のまま保存することも可能です。
ただし仕訳帳や総勘定元帳などの国税関係帳簿類は、電子的に作成されたもののみが電子保存の対象です。
手書きによって作成された帳簿類をスキャナ等で取り込み、電子的に保存することはできません。
まとめ
この記事では電子化できない契約書と、取引したデータの電子保存について解説しました。
ほとんどの契約書は電子化することが可能ですが、取引相手の同意を得られなかったり、公正証書による作成が必要だったりする場合には、電子化できないこともあります。
また、電子化された取引データは、電子帳簿保存法に則って正しく保存しなければいけません。
電子取引や電子帳簿保存法に不安のある方は、弁護士までご相談ください。