相続が発生したものの、「相続人に行方がわからないひとがいる」というケースは珍しくありません。
遺産分割協議は、基本的に相続人全員で進める必要があるため、行方不明のひとがいると探す手間がかかります。
今回は、相続人が行方不明の場合の対処法を解説します。
相続手続きに必要な「相続人全員の関与」とは
相続の場面では、遺産分割協議や不動産登記、預貯金の解約など、多くの手続きに相続人全員の関与が求められます。
「全員」とは、法定相続人全員を指します。
しかし親戚の人間関係などによっては、相続人が全員すぐに集まるとは限りません。
関与できない相続人がいれば、基本的には手続きを進められないため注意が必要です。
相続人が行方不明になる原因と事前の対策
行方不明の相続人が出る原因・背景はさまざまです。
- 疎遠になっていた親族との連絡が取れなくなっている
- 転居後の住所が不明になっている
- 海外移住や長期入院などによる音信不通がある
上記の事態に備えて、被相続人自身が遺言書を作成し、遺産分割の方針を明確にするのがおすすめです。
遺言書があれば、相続人の全員合意が不要となる場合があり、行方不明者がいても相続手続きをスムーズに進められる可能性があります。
まずは行方不明者への連絡をする
相続人に行方がわからないひとがいる場合、最初のステップは、行方不明者を探すことです。
戸籍謄本(全部事項証明書)を取得して、現在登録されている住所を確認しましょう。
戸籍の附票を取り寄せれば、過去の住所履歴も追えます。
住所へ直接行くのではなく、まずは手紙などを出して様子を見ます。
内容は以下のようにするのがおすすめです。
- 自分との関係(相続人であること)
- 被相続人が亡くなったこと
- 相続手続きが必要であること
- 連絡を希望する旨と連絡先
電話をしてもらうか、直接会う約束などを取り付けて、相続に関して説明する機会を設けてください。
行方不明の相続人がいる場合に検討すべき制度
連絡が一切取れない場合は、法的手続きを用いて、相続の支障を解消する必要があります。
①不在者財産管理人の選任申立て
②失踪宣告
それぞれ確認していきましょう。
①不在者財産管理人の選任申立て
相続人が一時的に行方不明であり、「生死は確認されているが所在が不明」というケースでは、「不在者財産管理人」の選任を家庭裁判所に申し立てる方法があります。
不在者財産管理人は、行方不明者に代わって遺産分割協議などへの参加が認められています。
申立てを行えるのは、利害関係人(他の相続人など)や検察官です。
申立先は、行方不明者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
不在者財産管理人になれるのは、利害関係のない被相続人の親戚や、弁護士などの専門家です。
②失踪宣告
長期間にわたり生死不明の状態が続いている場合は、「失踪宣告」の制度を活用する方法もあります。
失踪宣告とは、一定期間以上生死不明である人物について、法律上死亡したものとみなす制度です。
失踪には「普通失踪」と「特別失踪」の2種類があり、それぞれ条件や扱いが異なります。
■普通失踪
7年以上音信不通で、生死がわからない場合です。
家庭裁判所に対して「失踪宣告の申立て」をし、裁判所による審理後、「死亡したもの」とみなされます。
■特別失踪
戦災や海難など生命に危険がある状況で行方不明になり、1年以上所在不明の場合です。
普通失踪よりも要件の緊急性・重大性が高く、期間も短縮されています。
失踪宣告後に本人の生存が判明した場合、失踪宣告は取り消され、相続に関する法律関係も遡って修正されます。
失踪宣告を選択する場合は、事前に弁護士などに相談し、状況に合った方法かどうかを慎重に検討してください。
不在者財産管理人の選任手続きの流れ
不在者財産管理人の選任には、以下のような手順が必要です。
①必要書類の提出
②裁判所による審査・選任決定
③選任後の手続き
それぞれ確認していきましょう。
①必要書類の提出
申立てには、以下のような書類が求められます。
- 申立書
- 不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 不在者の戸籍附票
- 財産管理人候補者の住民票または戸籍附票
- 不在の事実を示す資料
- 不在者の財産資料(不動産登記事項証明書、通帳コピー、残高証明書など)
- 利害関係人が申立人の場合は利害関係を示す資料(戸籍、契約書など)
入手できない戸籍などがある場合、申立て後の追加提出も可能です。
②裁判所による審査・選任決定
家庭裁判所は提出された書類や事情をもとに、選任の可否を判断します。
必要があれば、補足資料の提出や意見聴取が求められることもあります。
裁判所が適任と認めた人物が、不在者財産管理人に選任されます。
③選任後の手続き
民法第28条によれば、不在者財産管理人が通常の管理を超える行為(遺産分割協議に参加する、財産を売却する)を行うには、家庭裁判所の許可が必要です。
不在者財産管理人本人が、不在者財産管理人を選任した家庭裁判所に対して申立てをします。
まとめ
今回は、相続人が行方不明である場合の対応方法について解説しました。
相続手続きでは相続人全員の関与が求められるため、行方不明者がいると対応が難しくなります。
その際は、不在者財産管理人の選任や失踪宣告といった制度の活用を検討してください。
状況に応じた適切な手続きに進むためにも、必要に応じて弁護士など専門家のサポートを受けるのも重要です。