金法律事務所

金法律事務所公式ロゴ

業績悪化が理由の減給について会社側の法的リスクはある?

目次

業績悪化を理由に減給に踏み切らざるを得ない会社も少なくないと思います。
しかし、労働者の給料等の労働条件は、労働基準法等によりさまざまな法規制が設けられており、会社側がこれらの規制を無視した場合は、違法、減給が無効となる等、法的リスクを負う可能性があります。
本稿ではこうした事態を避けるために、会社側としてどのように対処したらよいのか解説します。

給料等の労働条件の決め方

給料等の労働条件は、会社と労働者間の契約により決定されます。
私人間の契約は契約自由の原則により、どのような内容でも自由に定めることができます。
そのため、減給についても、会社と労働者間で合意すれば、法的な問題は生じません。
しかし、会社と労働者の交渉力には差があり、労働者が不利な立場に立たされるのが一般的です。
そこで、労働基準法を初めとする様々な法律により法規制が設けられています。

給料等の労働条件の根拠規定

給料等の労働条件の根拠規定は主に次の4つに分けられます。

  • 労働基準法、最低賃金法等
  • 就業規則
  • 労働協約
  • 労働契約


それぞれ見ていきましょう。

労働基準法、最低賃金法等

労働基準法、最低賃金法等は、国や地方ごとの最低限の労働条件を定めたものです。
労働者の同意があったとしても、最低賃金を下回る減給は違法になります。

就業規則

就業規則は、職場の原則的な労働条件を定めたものです。
就業規則には、絶対的必要記載事項と言い、必ず記載しなければならない項目がありますが、賃金の決定方法と計算方法、支払方法、締切り、支払時期もその一つです。
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は無効とされているため、個別の労働者との交渉による減給の際も就業規則の基準を下回ることはできません(労働契約法12条)。
業規則の基準を下回る減給をするには、就業規則の変更が必要になります。

労働協約

労働協約は、職場に労働組合がある場合に、個別の労働者に代わって使用者側と交渉を行い、労働条件を定めたものです。
労働組合に加入している労働者については、労働協約が個別の労働契約に優先して適用されるため、労働協約で定めた給与基準を下回る減給は認められません(労働組合法16条)。
また、労働協約は労働組合に加入していない労働者にも拡張適用されるケースがあるため注意が必要です(労働組合法17条等)。

労働契約

労働契約は、会社と個別の労働者の間で交わされる契約です。
給料等の労働条件については自由に定めることができるため、業績悪化を理由とする減給も労働者が同意すれば可能です。

業績悪化を理由に減給する方法

業績悪化を理由に減給するためには労働契約、労働協約、就業規則のいずれかを変更する必要があります。

労働契約を変更する方法

会社の従業員数が少ない場合は、個別の労働者ごとに交渉して、労働契約を見直し、合意を得ることで減給が可能になります。
減給に関して、労働者と同意が成立したら、同意書を交わしたり、改めて、労働契約書を作り直すなど、文書を作成して、双方が署名しておくことが大切です。
ただし、労働基準法、最低賃金法等に抵触する水準まで減給することは違法なのでその点には注意が必要です。

労働協約を変更する方法

労働協約がある場合は、個別の労働契約よりも優先して適用されるため、まずは、労働協約で定めた給与水準を下げる必要があります。
労働協約の変更は、労働組合との交渉により行います。
交渉の結果、減給に関して合意に至った場合は、合意内容の文書化が必要です。
具体的には、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することが求められています(労働組合法14条)。

就業規則を変更する方法

就業規則で定めた労働条件については、原則として、労働者の不利益になる内容に変更することはできません。
不利益変更を行うためには労働者の合意が必要になる上、変更の範囲が「合理的な」範囲に留まっていなければならないものとされています(労働契約法10条)。
「合理的」であるかどうかは次の事項が判断要素となります。

  • 労働者の受ける不利益の程度
  • 労働条件の変更の必要性
  • 変更後の就業規則の内容の相当性
  • 代替措置その他関連する他の労働条件の改善状況
  • 労働組合等との交渉の経緯
  • 他の労働組合又は従業員の対応
  • 同種事項に関する一般的状況


これらの事項を総合考慮して判断すべきとするのが判例の見解です(最判平成9年2月28日 民集 第51巻2号705頁)。
一般的には、減給の範囲は必要最小限の範囲に留めることが求められますし、減給が必要なほど、業績が悪化していると言えるのかどうかも考慮されます。

また、就業規則の変更には一定の手順があります。
具体的には次のとおりです。

  • 就業規則の変更内容につき、弁護士等の専門家を交えながら検討する
  • 労働者代表者に変更内容を示して、意見聴取を行う
  • 労働基準監督署に就業規則変更届を提出する
  • 就業規則の変更内容を労働者に周知する

まとめ

業績悪化を理由にやむを得ず減給に踏み切らざるを得ない会社もあると思いますが、減給に際しては、労働基準法、最低賃金法、労働契約法などで定めるさまざまなルールを遵守する必要があります。
労働基準法等を無視した減給は、違法、無効となってしまいますので、法規制に関して詳しくわからない場合は、弁護士等の専門家へ相談することが大切です。